低いスチール製のフェンスの向こうに 笑顔の千都勢が立っていた。
「おはよ、今日、入学式だよな? 3人とも おめでとう」
「おはよう、千都勢クンっ」
俺を突き飛ばすようにしてどかした清香が、千都勢の前に駆け寄る。
「おめー、俺んちに勝手に入ってんじゃねーよ。サスケも、よそのヤツ入って来たら、吠えろよっ」
清香のすぐ近くに置かれた犬小屋から、顔だけ出して寝ていたサスケは、俺の声に一瞬チラリとこちらを見たものの、すぐにまた目を閉じた。
「良也、サスケはぜってー番犬にならないって。さっきだって、清香がキョドってるの完全に見て見ぬフリしてたから」
雄太に言われて、ガックリと肩を落とす。
「コイツ、俺のいうコトだけ聞かねーんだ。兄ちゃんのいうコトなんて100%聞くくせに…」
「ナメられてんな、それ」
雄太に笑われて、ブスっとしながら顔を上げると 千都勢と目が合った。
千都勢は笑顔で清香と話しながら 目線だけ こっちを見ていて、目が合った瞬間 何だかバツが悪くなったオレは、つかつかと歩み寄り清香のスクールバッグに軽く蹴りを入れた。
「いつまでダベってんだ。 入学式 遅刻すんぞ」
振り返り、俺のコトをギッと睨んだ後、清香は満面の笑顔で向き直り千都勢に聞いた。
「あのね、さっき話してたんだけど、千都勢クンの学校の入学式って、いつなの?」
「うちの? あさって、だけど?」
千都勢の言葉に、オレは眉をひそめて千都勢を見た。
(千都勢…どーゆーつもりだ?)
「そーなんだぁ、やっぱり私学は違うのね〜」
胸の前で手を握り合わせてキャアキャアと喜んでいる清香の向こうの千都勢を ジッと見ていたら、オレの視線に気づいた千都勢がオレを見つめ返して来た。その表情からは千都勢の考えているコトを読み取ることはできなかった。
「清香の言ってるコト、意味分んねー。もう、ほっといて学校行こうぜ」
雄太の言葉に頷きながら、俺は清香のセーラー服の首の所を掴んで引くと、そのまま雄太の方へ向かって清香を突き飛ばした。
一瞬、驚いたような顔をして俺を見た千都勢に向かって小声で
「チト、話あっから、帰って来たらお前んち行く」
それだけ言うと、ブーブー文句を言ってる清香と雄太の所へ駆け寄った。
清香が千都勢に声を掛け、手を振っていたようだけど、俺は振り返らずに早足で歩き続けた。