弥生 3月――。
卒業式も無事に終わり、今は親子参加の謝恩会の真っ最中。
俺は小学校の敷地内の端に作られたビオトープの小川の前で、アイツを待っていた。
着慣れないスーツのネクタイがウザくても大人のネクタイみたいに緩めるとかってできないから、ゴムのフックを取って外したネクタイをポケットにねじ込んだ。
卒業式の後、最後のHRのために教室へ向かう途中、俺は階段の踊り場でアイツを掴まえて言ったんだ。
「謝恩会、途中で抜け出せないか? 話があるんだ」
アイツはちょっと驚いた顔をした。
「俺はいーけど、ヨシは係があったんじゃないの?」
「終わってから抜け出す」
「ふーん」
「ビオトープで待ってるから」
「最後の最後まで先生泣かせだな」
そう言って笑った後、アイツは“いいよ”と言って階段を上がって行ったんだ。
俺、木田良成(きだ よしなり)は、今から親友の緒川千都勢(おがわ ちとせ)に告白しようとしている。
千都勢のコトは出会った頃から好きだったけど、友達としてじゃなく、そーゆー意味で好きなんだと気がついたのは1年くらい前だったと思う。
千都勢はアイツんちのおばさんに似て整った綺麗な顔をしているけど、別に女子っぽいわけでもないし、ひょろりと細長い体型といい、その性格といい、おせじにも可愛いとは言い難い。
一方の俺は身長は低い方ではないけど、千都勢より数センチ大きいくらい。でもバスケをやってるからアイツに比べれば身長と体重のバランスは良い方だと思う。
顔は…至って普通だと自分は思ってる。
そんな感じで、俺も千都勢も別に特別な所なんてないフツーの小学6年生だ。
それなのに…