「何か…悪ぃ……」
さっきから、孝輔が謝るのは何度目だろう?
「別にいーって。気にしてないし、俺は休ませてもらって助かってるんだし…」
孝輔の家に着いた時、玄関で孝輔の姉さんと出くわした。
強面の孝輔とは、似ても似つかないモデル風美人ОLなんだけど、女の人にしては長身で、俺と大差ないから170p近くあると思う。 そういう所は、やっばり姉弟…というより、狭川家の血筋なんだろう。
「冴木クン、いらっしゃい。 孝輔、私ちょっと出て来るから、夕飯いらないって言っておいて」
「えっ!? 今日は、有給で一日家に居るって言ったじゃねーか」
「予定は未定。 変わるコトだってあるのよ。じゃ、あとは よろしく。 冴木クン、ゆっくりしていってね」
孝輔が何か言う暇も与えず、姉さんは あっという間に出かけて行った。
そして孝輔は、その後 何度となく、俺に謝っていると言う訳だ。
でも、そんな風に何度も謝られるのは、下心はなかったと孝輔が必死に釈明しようとしているのと同じで 返って気になってしまい、俺は孝輔の部屋で身の置き所のないような居心地の悪さを感じながら、勉強机の椅子を引いて座った。
孝輔の必死さが、以前 俺に宣言した約束を守るためのモノなのか、後輩の子への操立てなのか、はっきり判らない所が俺の居心地の悪さを倍増させているんだけれど、それを聞く訳にもいかず、落ち着かない気持ちに呼応するように視線があちこちに泳いでしまう。
そして 泳ぐ視線が机の上をかすめた時に、俺は見つけてしまった。
(水色の織地のお守り――)
俺は…変だ。
どうして、孝輔の顔が見られないんだろう?
どうして、こんなに あの子のコトが気になるんだろう?
総てが俺の望み通りになるかもしれないのに、何で…何で……
―― 何で、こんなに悲しい気持ちになるんだろう? ――
頭の中を、自分自身でも理解できない感情がぐるぐると渦巻いて、このままだとキツ過ぎる…そう思った時、俺の口は勝手に動いていた。
「お前、あの…海で会った後輩の子と、付き合ってるのか?」
言った後に、しまったと思ったものの、一度口から出てしまった言葉は取り消せない。 一人あたふたする俺の顔を、壁に背をもたせ掛けて立っていた孝輔は、ひどく驚いた顔をしながら まじまじと見つめてきた。