1泊2日の旅行から帰ってからも、俺の体調不良は続いていた。
相変わらず食欲はないし、胸のムカムカも治まらない。
あの旅行の2日目、帰りの電車をあちこちで途中下車して孝輔の決めたルートで観光名所を回ったりしていた時は、それなりに体調も回復していたから、もう大丈夫だと思っていたのに、帰宅してからは疲れが出たのか、状況が悪化した。
夏休みだからと出かけるどころか、何もする気にならず、ただゴロゴロと寝て過ごして、今日で5日目になる。
カレンダーは、8月に変わっていた。
「……」
考えた方がいいコトは、たくさんあるような気がするのだけど、脳が考えるコトを完全に拒否してるようで、俺は毎日腑抜けた状態のまま過ごしていて、それでも別に不都合もなく生活できているから、ますます考えなければいけないコトは遠ざかっていくばかりだった。
だらだらと非生産的な日々を送るコトだって、りっぱな夏休みの堪能の仕方だ、と 自分の自堕落な生活を擁護するような屁理屈をこねながら、今日もまたエアコンで快適に冷えたリビングのソファに寝ころがっている。
と、その時、突然、携帯に着信があった。
だらけた俺は、起き上がることもせずに、携帯を手に取った。
それは、オカンからだった。
『奏多? 今、暇でしょ? 暇よね? お願い、今すぐ うちの店まで来てくれない?』
切羽詰まった声に何事かと思ったら、家に忘れ物をしたらしい。
『冬の新作カタログの見本が入った封筒、玄関に置き忘れちゃったのよ。午後一で印刷会社さんと打ち合わせがあるから、それまでに持ってきて欲しいのっ』
「マジかよ? めんどくせーなぁ」
寝ころがったまま文句を言うと
『あんた、もう5日もゴロゴロしっぱなしなんでしょ? 少しは、動いて気分転換しなさい! 頼んだわよっ』
と、言うだけ言って、一方的に切られてしまった。
「くっそ! 切りやがった」
仕方なくノロノロと起き上がると、俺は嫌々ながらも5日ぶりに出かける準備を始めたのだった。