「よしっ、まだ帰ってないな」
修斗は、孝輔と自分に宛がわれた部屋のインターフォンを押して、二人が帰って来ていないコトを確かめると、颯生を急かして 奏多と颯生の部屋の鍵を開けさせた。
「なんだよ、もう。 ホテルに戻るのに、全力疾走する必要なんかなかったじゃないか! しかも、俺はクマまで持たされて――」
告白の余韻も無く、真夏の夜に汗だくになるまで全力疾走させられたコトに文句を言いながらカードキーをドアに差し込むと、キーを抜くのももどかしいと言った具合に、修斗が部屋の中へ追い立ててくる。
備え付けのドレッサーの椅子にクマを座らせ振り返った瞬間、修斗の手が腰に回って来て 言葉を発する間もなくベッドに押し倒された。
「痛っ、何すんだよ、修斗」
「何って、セックスするに決まってんじゃん」
「なっ!」
あまりにも、しれっとした態度で言ってのけるものだから、颯生は二の句が継げなかった。
「奏多が戻って来て、インターフォン押してきても、無視すっからな」
言うなり、颯生を押さえつけ キスしようと顔を近づけてくる修斗の額と顎を掴んで押し返し、それを阻止すると、修斗はものすごい不満顔になる。
「なんだよ、颯生は俺とセックスしたくないの?」
そうもハッキリと聞いてくるなら、こちらもハッキリ断ってやろうかと思うものの、不満顔から拗ねた子供のような表情に変わって行く修斗を見るとそれもできず、颯生はモソモソと本心を口にする。
「だって、さっきの全力疾走で汗だくだし、シャワーくらいさせろって…」
けれど、修斗の口から飛び出した言葉は、期待したような優しいセリフとはかけ離れたものだった。
「バッカだなぁ、お前。どうせ今からもっと汗だくになるんだし――」
「はっ?」
「俺としては、颯生をいっぱい感じさせて、ヌチャヌチャのダラダラのグチョグチョにしてやろうと思ってるんだから、シャワーなんて――」
「だ、黙れっ、このバカ!」
修斗のとんでもないエロ口に耐えかねて、頭の上にあった枕を思いっ切り投げつけた。
「だ、だいたい、セックスするったって、何の準備もしてないのに――」
「準備って――颯生なんで そんなコト知ってんだ? もしかして、経験あるのか?」
修斗の驚いた表情の中にホンの少し悲愴の色が見てとれたような気がして、颯生は慌てて釈明した。
「バカッ! お前んちで、奏多と3人でゲイビ見ただろ!? おかげで、いらん知識が豊富になっちゃったじゃないかっ!」
「今、ちゃんと役に立ってんじゃねーか。 ん、でも、そっか、ローションかぁ……あ!アレがあるじゃん」
何を思いついたのか、修斗が颯生のバッグの中を物色し始めた。
その後ろ姿を見て、どうせろくでも無いコトを思いついたんだろうと思うと、颯生は、深いため息を吐いた。
「あった。ほら、コレっ」