「孝輔に嫌がらせしたのはさ……」
そして、またすぐ沈黙が降りる。
けれど、沈黙は颯生に向かってクマが押し付けられるように渡された後、破られた。
「お前が孝輔のこと好きだって判って…悔しかったからだよ!」
「………えぇっ?」
今度は、颯生が素っ頓狂な声を上げる番だった。
クマを手放した修斗は、正面から颯生を責めるように凝視していた。一方、渡されたクマを両手で抱えた颯生は、修斗の言葉に驚いて聞き返した。
「俺が孝輔のコト好きって、何だ、それ? 」
「隠さなくたっていい。 お前、2年になってから、孝輔のことばっか見てたじゃん。あれだけ見てたら、好きだってコト バレバレだっつの」
めったに見るコトの無い、というより、これだけ長い付き合いの颯生でさえ見たコトが無いかもしれないような、大真面目な顔の修斗の迫力に押されて一旦は口を噤んだものの、的外れな間違いだけは正しておこうと、こちらも正面から修斗の視線を捉えた。
「俺、孝輔に友達以上の感情なんて持ってないけど?」
颯生にしては低めの これ以上ないくらい冷静な声に、修斗の表情に戸惑いが生まれた。
「颯生…それマジ?」
「うん。すっごい勘違いだ。 俺が孝輔を見てたのは、奏多と孝輔が両想いっぽいのに進展しないから気になったからで―――って、ちょっと待って…そもそも、何で修斗が悔しがるんだ? 奏多のコト好きじゃないんなら別に――う゛―ん、なんか混乱してきた…」
颯生の中で組み立てていた関係図は、どうやら間違っているらしい。 けれど、修斗もとんでもない構図を描いていたようで、その間違った二つが ここで合同化したために、颯生の頭の中でそれを再構築するには少し時間がかかりそうだった。
と、その時、突然 修斗が颯生の両肩を掴んだ。
「颯生、確認なんだけど、ホントに孝輔のコト 好きじゃないんだな?」
「だから、違うって――」
「颯生っ、好きだ!」
「はっ!? 」
言うが早いか、修斗は颯生を引き寄せ、有無を言わさずにキスをした。
予想だにしなかった修斗の行動に呆気に取られたのは一瞬で、状況を理解した颯生が二人の間で押し潰されるクマごと修斗を押し返そうとした時には、すでに後頭部を大きな手で押さえつけられ、口内に舌を差し入れられていた。
「んんー、ん、んー」
抗議の言葉も、修斗の舌と唇に吸い取られ意味を成さない。
言いたいことも言わせてもらえない上に、ついでとばかりに舌を絡め取られ激しく吸われた。
ぬるぬると口腔を這いまわる舌に翻弄され、息苦しさと背中を這いあがる電流のような感覚に立っているのが精一杯になった頃、ようやく唇だけが解放された。