「なんか…あいつ等、行っちゃったな…」
「うん……つか、修斗。 お前、一体何がしたかったわけ?」
考えがまとまらず、ぼんやりしていた所に修斗が話しかけて来たから、ウッカリ返事をしてしまう。
けれど、その直後に我に返り、修斗からキッチリ話を聞こうと向き直った。
孝輔と奏多の事が気にならないでもなかったけれど、あっちはあっちで何とかするだろうと、この際、忘れる事にする。
「お前、奏多にちょっかい掛けるために、わざとはぐれたんだろ?」
「それは誤解だって! ホント、奏多を見つけたのは、お前らとはぐれた後、偶然――」
「…嘘っぽい……」
颯生が睨みつけると、修斗は降参とばかりに両手の平を顔の横に上げて見せた後、颯生の手から景品のクマのぬいぐるみを受け取り、高い高いをするように空へと放り投げて、キャッチする。
「颯生には嘘吐けないな。…ま、半分ホントで、半分ウソ…かな? 奏多を見つけたのはホントに偶然だったけど、お前らとはぐれたのは、わざとっ」
再び、クマを放り投げる。
「なんで、わざとはぐれる必要があったのか、判んないんだけど?」
颯生の質問に対して、修斗は落ちてきたクマをキャッチして、今度はそれをギュッと抱きしめながらポソっとつぶやいた。
「…気をきかせたんだっつの」
けれど、そのつぶやきは颯生の耳には届かなかった。 と、言うよりも、わざと颯生に聞こえないようにつぶやいたんだろう。
「孝輔さ、奏多を探してる時、どうだった?」
唐突な修斗の質問返しに、やや面喰ったものの、それが何だと思いながら颯生は答えた。
「それは、それは、必死になって探してたさ」
「颯生の事なんて、目に入らないくらいの勢いで?」
「何だ、それ? よく判んないけど、孝輔はちゃんと俺にも気を使ってくれてたぞ。途中、人混みから庇ってくれたし……でも、それがどうかしたの?」
「別にぃ。孝輔は頼りがいがあるもんな」
「?」
どこか小さな子供のように拗ねた態度の修斗を見ていて、あぁ、なるほど、と思う。
(そうか、奏多が孝輔に連れていかれたから拗ねてるんだ)
普段から明け透けで、裏も表もなければ、常にフルオープンの修斗は、奏多への気持ちも こんなに判りやすく態度に出てしまうんだろう。
今まで、告られるままに次から次へと彼女をチェンジしてきた修斗の口癖は『付き合ってるうちに1番好きな子になるかもしれない』だったけれど、とうとう…と言うか、付き合わずして『1番好き』と言える相手に出逢えたというコトなのか。
長いこと修斗の隣で、その歪んだ交際遍歴を見させられて来ただけに、修斗のマジ恋はぜひ応援してあげたい所だけれど、孝輔と奏多はどう見ても両想いだと判っているからなのか、心の底から頑張れという気持ちになり切れない自分がいるコトに、颯生は気がついていた。
(修斗の失恋、ほぼ決定だからなぁ…つか、奏多のいう通り、俺って陰険なのかな? ちょっと喜んでる俺がいるし…)
今まで散々、修斗の恋愛のとばっちりを受けてきたのに、当の本人は毎回無傷で、理不尽極まりないと常々思っていたのだから、この程度の意地悪な感情くらい持っても不思議はないか、と一人納得する。