その日、颯生は修斗を含めた友達3人と一緒に1泊2日の旅行に来ていた。
元々、学校で仲良くしている仲間なのだけれど、今回の旅行は皆の様子が普段とかなり違っていて、誰もがその場に居づらい思いをしながらもお互いに気を使ってここにいる、といった具合の何ともしがたい雰囲気が漂っていた。
旅行の計画を立て始めたのは梅雨前の事で、その頃は何ら変わることない4人で、皆この旅行を楽しみにしていたはずだった。
けれど、梅雨に入ってすぐの辺りから、修斗と孝輔(こうすけ)の様子がおかしくなった。 この二人、マイペース自由人と一匹狼系自由人で、割とウマが合っていたのに突然目を合わさなくなった。 それでいて、お互いの動きはチェックしているような不穏な雰囲気を周りに漂わせるようになっていた。
それだけだったのなら、何かつまらないことでケンカでもしたんだろうくらいで済むのだけれど、時期を同じくして修斗が何故か、もう一人の友人である奏多(かなた)に ちょっかいをかけ始めたのだ。
一度、颯生が修斗の家に行った時、たまたま奏多が遊びに来ていて、ゲイビの鑑賞会なんてしてるものだから、面くらってしまったことがある。
もしかしたら、修斗は奏多の事が好きなのかもしれないと、その時に思った。
一方、孝輔と奏多の二人は、どうもお互いに好きあっているように見えるので、男同士ではあるが本人同士が良ければと、二人の様子を伺い見て成り行きを見守っていたのだけれど、何故か夏休み前に、今度は孝輔と奏多の様子までおかしくなってしまった。
修斗と孝輔と奏多。
自分を覗いた男3人での三角関係が展開されてでもいるのだろうかと、首を捻ったけれど真実は判らない。
そして、どうやら皆は何も解決しないままの状態で今日と言う日を迎えてしまったらしく、旅行の始まりはとても静かなものだった。
それでも旅先の海は、ともすれば沈みがちな高校生4人のテンションを上げるのに それなりの効果があったようで、いつも通りとは行かなくても、皆が楽しんでいるような様子を見て、少し肩の荷が下りたような気のする颯生だった。
けれど、その日の夜、宿泊先のホテル近くの神社で催されていた縁日にでかけた時、ちょっとしたハプニングが起こった。
奏多が一人、はぐれてしまったのだ。
はぐれたと言っても小さな子供な訳でもないし、その辺りを探していればそのうち会えるだろうと思っていたのだけれど30分近くたっても合流できず、携帯も繋がらない。これは一度ホテルに戻った方がと相談している隙に今度は修斗までいなくなってしまった。
「どうする? 孝輔…やっぱ一度ホテルに戻った方が…」
「いや、戻ったのなら誰かのケータイに連絡入れるんじゃないのか? とりあえず、もう少し探そう」
修斗の姿が見えなくなってから、孝輔にそれまで以上の焦りの色が見え始めたような気がする。
普段 何事にも動じない冷静な孝輔からは考えられない程の狼狽えようで、それが颯生にも伝染したのか、何だか気持ちばかりが急いてくるのを感じた。
「岡田、木下の携帯に、もう一度かけてみてくれ」
「わかった」
(まったく修斗の奴、人にぬいぐるみまで押し付けて、どこに行っちゃったんだか!)