俺は、ずっと唇を噛みしめていた。
アイツの肩を掴んだ手に力を込めると、手の平がジットリと汗ばんでくるのが分る。
それでも、こうして全身に力を込めていないと、自分の意志とは無関係に自分のものとは思えない甘えたような声が口をついて出てしまうんだ。
アイツは俺の頭の横に肘を着いて、その手で俺の額から髪をかき上げるようにして頭を撫でてくる。
その優しい指使いに、うっとりと目を閉じると、脇腹から腰へくすぐるように流れて行くもう一方の手の感触が、より一層鮮明に体に伝わり、ギュッと噛みしめていたはずの唇から、甘い吐息が漏れて行く。
その手は、触れられるコトを待ち望んでいるように頭をもたげた俺の昂りに、ゆっくりと人差し指を這わせ始める。
その途端、ビクリと腰が震え、俺の唇から小さな音が漏れる。それは、もう吐息ではなく、小声ではあったけれど明らかにアイツから与えられる快楽を感じ取り、その気持ち良さに応える喘ぎ声に他ならなかった。
「あ…ぅん、ん…」
ほんの少し触れられただけで、全身が甘い期待に震え出し、俺の昂りが一層の熱を持つ。
そんな俺を見て、アイツは低く笑うと耳に唇を寄せて言った。
「もう、こんなにして…そんなに良かったのか? 俺のキス…」
(何…言ってんだ…キスなん、て…されてない…)
「して、欲しいのか? キス…」
「……」
…違う。
して欲しいのはキスじゃない…そうじゃなくて……。
伝わらない思いも言葉にするには羞恥が強く、何も言えずに黙っているとアイツの指先が焦らすように俺の昂りをなぞり始める。
上から下へ、その逆へと、かろうじて触れるだけの指先の感触に我慢できなくなった俺は、その昂りをアイツの手に擦りつけるように腰を浮かせた。
そんな俺を見下ろしたアイツは、フッと笑って言った。
「どうして欲しいのか、ちゃんと言え」
そんなコト言えないとばかりに首を左右に振ると、もう一度 同じセリフを今度は耳元で囁かれた。
耳に届いた囁きと吐息の甘さに、体の奥にじんと伝わる疼きが俺の理性を飛ばした。
「触って…孝輔……」
自分の物とは到底思えない甘ったるい声で、孝輔の愛撫をねだった事実に驚いた俺は、ずっと閉じたままだった目をしっかりと開いた。