一年以上も前の 懐かしい出来事を思い出しながら、冷蔵庫からペットボトルのジュースを2本取り出して 2階の自分の部屋に戻った。
「お待たせ。あ〜涼しい、生き返るわ」
「下、エアコン入れてないのか?」
寝ころんだままの孝輔にペットボトルを渡しながら答える。
「下、誰もいねーもん。うち、オトンは単身赴任中で、オカンは仕事で帰り遅いって知ってるだろ?」
「妹は? いるだろ?ミオちゃん、だったか」
こんなデカくて厳つい男が、女(生意気な我が妹と言えど)のコトを“ちゃん付け”すると 正直 キモいな。
ちょっと、笑い出したいのを堪えながら答える。
「あいつ、今年 受験だから塾に行き始めてさ、学校から直行。下手すりゃ、オカンより帰り 遅かったりすんだぜ」
「…ふーん。レベル高いとこ狙ってるわけだ。兄貴とはエラく差があるな」
「悪かったな!」
「怒るな、頭悪くてもお前の方が美人なんだからいーんじゃねぇの」
「ハァ? 何言ってんの? 褒めてねーだろ、それ」
誰が美人だよ。カッコイイならともかく、美人なんて言われて喜ぶ男がいるかっつーの。
ベッドの反対側の壁際にある机に腰を下ろしてジュースを飲み始めた時、孝輔が言った。
「俺、炭酸キライ。お前のと交換してくれ」
「デカい男が、可愛らしいコト言ってんじゃねーよ。ってか、もっと早く言え。飲んじゃっただろ?」
「俺は構わん」
構わないなら、いーか。と、ペットボトルを投げて渡すと孝輔は、ごく普通にオレの飲みかけのジュースを飲んだ。
だから、オレも深く考えずに軽口を叩いた。
「う〜わっ、間接キスだし。これで、オレ達 友達以上の関係じゃん? 木下達にもカミングアウトしないといけねーな」
「……」
孝輔は片方の眉を上げて、チラリとオレの方を見ただけで何も言わなかった。
こういうトコ、結構 孝輔との差を感じたりする。
オレにしろ、木下や岡田にしろ、くだらない冗談や軽口でバカ笑いしたりするけど、孝輔はしない。