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□『 TURNING POINT 1 』
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「つーか、リモコン、おめーの方が近いだろ? そんくらい自分でやれよ、無精者」

「奏多(かなた)、優しくねー」

 孝輔の一言を無視して、部屋を出る。
 今でこそ、こんな風に軽口たたけてるけど、入学当初の孝輔は マジで怖かった。
 アイツとは、同じクラスで出席番号が前後だったことから話すようになったんだけど、正直 入学式での第一印象は“友達になれそうもない…”だった。
 とにかく、そのデカさに圧倒された。
新入生の中で、背の高いのは数人いたけど、孝輔は 背だけじゃなくて、体自体が出来上がっていた。
 つい、数日前まで中学生だったなんて、とても信じられないくらい ひとりだけ大人びて見えた。
 こんなデカい奴の後ろだったりすると、オレ何にも見えなかっただろうなぁ…前で良かった、なんて くだらないコトを思ったりもしたけど、でも身長もさるコトながら何より印象的だったのは、孝輔の目だった。そう、孝輔はすこぶる目つきが悪いんだ。
 しかも、見た目ちょっとヤンが入ってるっつーか、周りの人間に「こいつには関わらない方がいい」と思わせるような威圧感を感じさせるトコがあって、だから最初の頃は うかつに後ろを振り返らないように気をつけていたくらいだった。
 いつも不機嫌そうで、誰ともつるもうとしない よく言えば硬派のトコが、更に周りに人を寄せ付けないオーラになって、孝輔はいつも一人だった。
 でも、実際の孝輔は ちょっと不器用なだけで、本当は結構優しい普通の高校生だったりする。
 オレは、孝輔と初めて話をした日を思い出していた。

 席が前後でも口なんて聞いたコトなかったから知らなかったんだけど、孝輔とオレは家が同じ方向で、通学電車が同じだった。
 ある時、急いで帰りたかったオレが 電車に駆け込み乗車しようとしたコトがあったんだ。
 でも、寸前でドアが閉まり始め、これは間に合わないと諦めかけた時、電車の入り口付近に立っていた孝輔に気づいた。
 孝輔も、オレに気づいたようだった。
 その時、孝輔が足元に置いてあった自分のカバンを、閉まろうとしていたドアの間に蹴り入れた。
 オレの目の前で閉まりかけたドアが、孝輔のカバンの厚み分だけ閉まり切らずに止まった後、ゆっくりと左右に開いた。
 ほんの少し バツの悪さを感じながら、オレは電車に乗り込み 孝輔に礼を言った。
 孝輔は、ボソっと「良かったな、間に合って」とだけ言った。
それが、きっかけで オレ達は話をするようになったんだ。

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