その日は、朝から小雨の降り続く蒸し暑い日で、明けない梅雨に気分まで滅入りそうな天気だったけれど、期末テストの最終日を終了したオレ達は天気とは裏腹に、開放感でなんとなく浮足立っていたのだと思う。
しかも、下校後の今は オレの家で夏休みの計画を立ててる真っ最中で、テンション上がるのも当然…のはずだったんだけど…。
「じゃあ、夏休みの旅行は海ってコトで…U海岸か、O海岸辺りだな」
「後の細かいコトは あいつらに決めさせろ。ここまで、大まかな流れは作ってやったんだ。だいたい、俺は予定表だの、行動表だのに則って動くのは嫌いなんだからな」
結局、最後まで開こうともしなかった旅行会社のパンフレットをまとめてオレに突っ返すと、孝輔(こうすけ)はゴロンとベッドにひっくり返った。
人んちで、よく そこまで寛げるもんだな、と苦笑しながら 受け取ったパンフレットをひとまとめに旅行会社の封筒に押し込んだ。
高校進学を機にできた友達は何人かいるけど、その中でも 特に気の合った4人の関係は2年に進級した今も続いていて、暇さえあれば一緒に遊んでいる。今、オレのベッドに転がっている、狭川孝輔も その一人だ。
ホントは今日も 4人で相談する約束だったんだけれど、陸上部の木下と岡田は部活をサボって オレらと帰ろうとした所を顧問に見つかって、連行されていった。
それで仕方なく、予定だの、計画だのと言う言葉なんて知らないまま今日まで生きてきたような孝輔と、二人で計画を立てるはめになったんだ。
旅行会社のツアーは行動が制限されて嫌だと 孝輔が言い張るもんだから、泊まるトコだけ旅行会社に頼むことにして 後は二人で決めるコトにした。
自由人過ぎる孝輔と、多少 優柔不断気味のオレとで決められるのかと、少々 不安だったけど、自由人ゆえに決断力のある孝輔が その力を遺憾無く発揮してくれたおかげで、総ては簡単に決まった。
つまり、行き先が「海」というコト以外、全部 孝輔が決めてしまったわけなのだけど…。
それでも、その内容は文句のつけようがない程、ちゃんとした物だったから 良しとしよう。
「なんか飲む?」
立ち上がりながら、孝輔に声を掛けると、
「おう。 あと、エアコンの温度下げてくれ、なんか、暑ちぃ」
アイツは窮屈そうに寝返りを打ちながら返事をした。
孝輔は、デカい。 たっぱは、180pゆうに超えてるし、部活もやってないくせにドコで鍛えてんだよと聞きたくなるような筋肉質な体を持っているから、一緒にいると オレが妙に華奢に見えるらしく、一人でいる時に女子なんかから「冴木クン、意外と身長あるんだね、もっと小柄だと思ってた」って、言われたりするから、正直ムカつく。オレ、これでも170pギリであるんですけど。
ま、体重は…大っぴらに言えるようなもんじゃない程度の薄い体の持ち主だけどさ。