Novel Library 5

□Symmetry vol.21
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「自分で脱ぐなよ、ジッとしてろ」

 着ていた服を脱ぐのももどかしく振り返った俺に、ヘッドボードに凭れてシャツのボタンを外しかけていたハルは首を傾げた。

「服くらい自分で脱げるよ」

「いいからっ! なんにもするな、俺が全部する。だから動くな」

 不承不承といった(てい)で手を止めたハルの体を、ベッドの中ほどまで誘導してそっと押し倒す。
 普段はハルに押し倒されるコトの方が圧倒的に多いから、今の構図は俺としても新鮮だ。
 ことセックスにおいては百戦錬磨だろうハルは、自分からなにもできないコトが心許ないのか困ったような顔で俺を見上げてきた。
 初めてハルを抱いた三年前から今日まで、思い起こせばセックスの主導権はいつもハルにあった、ような気がする。ハルの中ではどうだったのか分からないけど、俺からしたら成り行きと惰性で続けていた関係だったから深く考えたコトもなかったのは確かだ。
 でもハルが好きだと気づいて、晴れて両想いとなった今俺たちは恋人同士なのだから、過去の俺やその他大勢のセフレたちとしてきたであろう流されたようなセックスはしたくない。
 ちゃんと俺の手でハルを感じさせて、気持ち良くさせて、恋人としてハルを抱きたいと思ったんだ。

「ハル…」

 薄闇にまぎれるような小声でハルを呼んでおでこにかかった前髪を払い、そのまま指先でくすぐるみたいに頬を撫でる。柔らかいクセっ毛を耳に掛けながら耳殻の後ろから顎、首筋へと指を進めればくすぐったかったのか僅かに肩を竦めた。
 右手でボタンを外し終えても前は開かずに、シャツの上から薄い胸の上に指を滑らせる。

「っン、だよ…焦らしてるの?」

「…どうだろうな」

 ついさっき乗り気じゃないみたいなコトを言っていたくせに、この状況が慣れないせいかハルは先を急がせようとする。
 それをスルーして、指と手の平をなんの隆起もない胸にゆっくり何度も行き来させる。
 薄手のシャツは滑りが良くて、スルスルと薄い胸板を撫でまわしていると我慢できなくなったハルが自らシャツの前を開こうとする。
 その手を押しとどめて両手を一纏めに頭上に縫い止め、見下ろしたハルをちょっと睨んでみせた。

「なんにもするなって言っただろ?」

「だって…こんなの焦れったい……」

 不平を言った唇を尖らせているのが可愛くて、それを啄むみたいなキスを落とす。

「なんと言われようと、今日はあんたのペースじゃシないからな」

「な、んで…だよ」

 もう一度ゆっくり顔を近づけて、今度は少し長めのキスをする。リップ音を立てて唇を離しながら、ふと思う。俺たち何度もセックスしたのに、なんでだかキスだけは数えられるくらいしかしてなかったな。

「あんたのコト、可愛がりたいからに決まってるだろ」

 吐息交じりに囁いて、また口づけた。
 舌を差し入れ、口内を(まさぐ)り、絡め合わせる深いキスを繰り返す。

「ん…ふっ……」

 零れ落ちるハルの吐息に愛しさを募らせながら、ゆっくりとハルの体を撫で擦る。
 薄い生地の下に引っかかりを覚えてその感触を楽しみながらそこばかりを弄っていると、触れてもいない反対側のソレもぷくりと膨れてシャツを尖らせていた。
 そっと触れた舌先に確かな硬さを感じてチロチロと舐めるとハルの腰がもじっと揺れた。その反応に後押しされてシャツの上からむしゃぶりつき、わざと音を立てて吸う。

「はっ、ンん…」

 ビクンと震えたハルに体重をかけて押しつぶし、執拗に吸い上げる。舌にも唇にも変化がハッキリと感じ取れた頃にようやく唇を離すと、濡れたシャツに赤く膨らんだ乳首が透けて見えて壮絶にエロい。
 つい急いてしまいそうになる自分をなんとか宥めて、部屋着のイージーパンツを引きおろし足でけり落とす。ついでに自分のジーンズの前も緩めて下着の上から二つのペニスを擦り合わせた。

「ん、んっ…あ……」

 両手を押さえつけられたまま与えられる刺激にハルの腰が自然と揺れだした。擦り合わせるうちに形を変えたペニスからは先走りが零れ始めているんだろう。ジワっと濡れた染みが下着の色を変えているけど、それは俺も同じだった。

「ハル、気持ちい?」

「ん、ヤっ…だ…もっと……」

 自ら腰を浮かせ、より強い刺激を求めてハルの腰がガクガク揺れる。
 それを押しとどめて下着を下ろすと、完勃ちしたペニスがぷるんと飛び出した。
 感度が良すぎるハルが可愛くてにやけそうになりながら、意地悪を口にする。

「もうこんなにしてるんだ、やらしいな…」

「おまえがっ、焦らすから…だろ」

 悔しそうに下から睨んでくるハルの瞳にはうっすら涙の膜が張っていて、それは怒っているというより明らかに先を強請る欲情の色に光っていた。

「焦らしてるわけじゃねえよ、やらしいハルがもっと見たいだけ」

 前半分は嘘、あと半分は本音を告げながら二本の指でペニスを挟み、指の股で裏筋を擦り上げると「あぁっ」とハルが切ない声を上げた。
 先走りのヌメリを絡めてペニスを刺激しながら、濡れて乳首に張り付いたシャツを開くと赤く色づき膨らんだ粒が現れる。それを口に含んで転がしながらヌルヌルとペニスを扱く。
 愛撫に身を捩るハルは息を乱しながら強請ってくる。

「反対のも…舐めて……」

 もちろん言う通りになんてするつもりはない。
 ペニスを扱いていた手を止めてシャツを肩まで開き、ほったらかしにされていた小さな粒を抓む。ハル自身の零した先走りで濡れていた指で擦り上げてキュッと引っ張りながら、胸の上で囁いた。

「こっちも弄ったら、ちんこ触れないけどいいんだ?」

「違、ぅ…そ、じゃなくて……」

 主導権を握れないセックスにハルが焦れているのは手に取るように分かった。
 息を荒げながら、もどかしさに首を振る姿にそそられる。
 だがハルの天然のいやらしさになんとしても乗せられないようにしなければと、煽られそうになる度に心の中で自分を叱咤する。
 今日くらいは最後まで俺がリードするんだ。

「一番触って欲しいのは、どこ?」

 すべての愛撫の手を止めて耳元で囁くと、キュッと目を閉じて腰を上げ、俺の下腹にペニスを擦りつけてきたから驚いた。
 羞恥心なんて持ち合わせていないハルは当然ストレートな物言いで強請ってくるとばかり思って身構えていたのに、俺の下に組み敷かれたハルは僅かに頬を赤らめて遠慮がちに腰を揺すっている。
 見たコトのないハルに、思わずゴクンと喉が鳴った。
 なんだ、これ。可愛い。
 衝動を必死に押えていたのに、ハルの仕草に煽られた俺は焦らしていたのも忘れて、気づけば泣き濡れて腹の上で切なげに揺れるハルのペニスにむしゃぶりついていた。

「ひゃっ、ン…」

 反り返ったペニスは口に含んだ途端、とろりと先走りを零した。それを啜り、舌を這わせて扱きたててやる。ビクン、ビクンと跳ねる腰をベッドに抑え付けて根元まで全部銜え込み、口を窄めて夢中でハルを追い上げる。

「あ、ダメ…ルキ、そっ、なに…した、ら……ダメぇ…」

 「ダメ」と口にするハルは俺の口淫のリズムに合わせて浮かせた尻を淫らに揺らし、零れる先走りは扱くたびにどんどん出てきて、唾液と混ざって下へと溢れ流れた。
 キュッと凝った双球をあやしながら流れ落ちるそれを辿って奥へと指を伸ばす。
 触れた瞬間、そこはヒクンと収縮した。

「すげ…やらしい……」

 ちゅっちゅっと指に吸い付くみたいに蠢く孔に、ぬめりを馴染ませながら指を這わせる。少しだけ押し付けると誘い込む動きで窄まるそこは早く欲しい≠ニ言っているようで、まだ下着の中に収まっていた俺のペニスがググッと反応する。
 荒い吐息を零していたハルは、俺を見上げて責めるみたいな口調で呟いた。

「ルキ…エッチが、オヤジくさい……」

「憎まれ口叩いてるわりにはグズグズじゃん。ここも…ここもっ――」

 ヒクつくペニスの鈴口をグリっと抉りながら、孔へと指を押し込んだ。

「あっ!ンんっ」

 グチグチと音を立てながら押し込んだ指を抜き差しする。
 七菜子さんたちと食事に行く前、ハルに請われてセックスしたのは半日も前じゃない。
 当然そこはまだ柔らかくて、中を掻き回す指に吸い付くみたいに絡んできた。

「あ、フッ…ん……そ、なに…しなくても、挿入るからっ…ね、ルキぃ」

 身をくねらせてシーツをクシャクシャにしながら強請ってくるハルに言われなくても、そんなの俺だって分かってる。
 でも、まだだ。
 もっともっとハルを感じさせて蕩けさせてやりたい。
 掌の中で泣き濡れて、イったんじゃないかと疑いたくなるくらい先走りに濡れたハルのペニスを少し強めに擦ってやる。
 じゅっじゅっと鳴る濡れた音に合わせて中も探る。ハルのいいところは大して探さなくても分かるくらいには知っている。ハルがいつも自分からそこを宛がってくるからだ。
 少し浅めの腹側。他より張った感触の場所を揉み込むみたいに押し上げる。

「やっ! あ…アッ、あ……そこ、いいっ」

 途端にハルは両足をシーツに着いて腰を上げ、激しく揺すりだした。

「あ、も…イッ、く……イッちゃ、ぅ〜」

 その瞬間、指を引き抜き、ペニスの根元をギュッと握る。

「あンっ――」

 ビクンビクンと腰を弾ませるハルの鈴口は切なげにパクパク開くばかりで、僅かに滲み出た精子混じりの先走りを零しただけだった。

「な、んで…?」

「そんなに簡単にイかせてもらえると思った?」

 俺をねめつけるハルは寸止めされたせいか息も絶え絶えと言った具合で、色白の体のどこもかしこも薄っすらとピンク色に染めて普段の余裕っぷりはまったくと言っていいほど鳴りを潜めている。
 ペニスを握り込んだまま、チュッと音を立てて目元にキスする。
 ふて腐れたように唇を尖らせるハルのそこは涙に濡れていて、もう一度唇を押し付けてそれを舐め取った。

「ルキって…こんなねちっこい、セックス…するヤツじゃなかったよね?」

「ねちっこいって――あのな、俺たち恋人になったんだろ? だったら、めちゃくちゃ可愛がってハルのコト蕩けさせてやりたいって思うの当然だろ?」

「こ、恋人っ!?」

「……」

 まさかとは思うけど、こいつ状況を理解していなかったわけじゃないよな? ハルが上げた素っ頓狂な声に呆れた思いから溜息を吐く。

「なぁ、俺たち気持ちを確かめ合って、これから二人で一緒にいるって決めただろ? それってもうつき合って恋人同士になったってコトだろ?」

「そ、そうなの?」

「なんだよ、文句あんのかよ」

「文句…は無いけど……俺、今まで恋人がいたコトってないから…そーゆーの、よく分かんない…んだよね」

「は?」

 今度は俺が驚く番だった。
 今まで誰とも付き合ったコトがないって?
 あれだけ遊んでたのに?

 
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