Novel Library 4

□Symmetry vol.6
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 ナグモ先輩もそうだったけど、高等部の人はみんな大人っぽい。俺達と2つしか違わないのに、高校生というだけでもう別世界の人に見える。
 なんだかものすごく大人の人と話しているみたい気になって、俺の声は妙に小さく頼りないものになってしまう。

「あ、あ…あの…ナグモ先輩を……」

「南雲?あれ〜、南雲なぁ」

 グルリと周囲を見た渡したその人は「なぁ、南雲ってどこ行った?」と教室中に聞こえるような大きな声を張り上げた。
 そんな声を出されたら、注目されちゃうのに。

「南雲なら、ついさっき部活行ったぞ。今日は練習試合だとかで、他校の奴が来るから準備があるんだと」

 中から別の誰かがそう答えるのが聞こえた。
 どうやらほんの僅かな差で、俺と先輩は入れ違ってしまったらしい。

「だってさ。グラウンドのテニスコートに行ったらいると思うけど…南雲に何用だったの?」

「あ、あの…か、借りてた傘を……あっ!」

 スクバから出しかけていた傘に気づいた先輩のクラスメイトの人は、いきなり俺の手から傘を奪うと「じゃ、返しといてやるよ」と、人の良さそうな笑顔を見せた。

「あ、あの…」

「ちゃんと預かったからな、安心しろよ」

「あ…りがとう、ございます」

 そう言うのがやっとだった。
 俺、ホントは自分で先輩に返したかった。
 でも、こんなに親切心いっぱいの笑顔を向けられたら、「いいです」なんて言えない。
 
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