呆気にとられる思いでその人を目で追った。
その直後
「こらぁ、南雲!授業中に廊下を走るんじゃない!」
という高等部の先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ナグモ…」
あの人、ナグモって言うんだ。
変わった名字だな。でも、すごく親切な人だ。それに――
「すごく、カッコ良かった…」
自分の呟きにビックリした。
俺、何言ってんの?
初めて会った先輩に、ちょっと優しくしてもらったからってカッコ良い≠チて何なんだよ。
やっぱ、これも熱のせいかな?
何だかよく分からない感情に自分でツッコミを入れながら、自分が妙に慌てている事にますます慌てる。
なんなんの、俺?
男子校だからか部活の先輩とかに憧れる奴って結構いるけど、俺、今までそんな事一度もなかった。超絶的に何でもできる奴がそばにいるせいで、一つ二つ上の先輩がカッコ良くなんて見えるはずもない。
見た目はそっくり同じ顔だけど、俺にはルキのやる事為す事全部がカッコ良くてお手本だったりするから。
でも、さっきの人は今まで見てきた先輩達とは何か違う。
高等部の人だから?
いや、そういうのとも違う。
単に年上ってだけなら、うちには5つも年上の兄貴がいる。彼女が切れない上に複数いるところを見ると客観的にはそこそこカッコいいかもしれないけど、俺は兄貴をカッコいいなんて思った事はない。
何がどう違うのかなんて分からないけど、なんて言うか……ルキよりカッコいい――
わっ、俺、何考えてんの?
初対面の人だぞ。そりゃ、なんか優しい感じだったけど…って、ダメだ。思考が堂々めぐりしてる。
「お待たせ」
「は…」
一人でわたわたしていたら、さっきの先輩が戻って来た。
でも、先生を連れて来ている様子はない。
「ほら、お前の靴。間違ってないだろ?」
「え…えぇっ!俺の靴、持ってきてくれたんですか?」