普段、校舎の南側にある教室から昇降口へ行くには廊下を左に行くから、つい習慣でうっかり左へ来てたみたいだ。
熱で朦朧としてたせいだろうけど、俺は間違って中等部とは反対側の高等部の校舎に迷い込んでいたらしい。
この学校は中校舎を真ん中に高等部と中等部がシンメトリーに作られている。高等部の端にあるこの昇降口と中等部の端にある昇降口は真逆に位置してた。つまり、俺は今から高等部の校舎を抜けて、中校舎を通って更に中等部の校舎の端まで戻らないとならないって事だ。
考えただけで脱力する。
「方向を間違えたのか?ドジだな」
「う……」
「ま、具合悪そうだし仕方ないか。お前、何年何組?」
「は?」
「学年とクラス!あと、名前も」
知らない上級生に個人情報を聞かれて戸惑わなかったわけじゃないけど、熱のせいでどうにも体がしんどかったし、きっと先生でも呼びに行ってくれるんだろうと思って、俺は素直に答えた。
「2年A組の、小澤優輝です」
「ちょっと待ってろよ、あ、しんどかったらその辺に座っとけ。いいか、動くなよ」
高等部のその人は俺を指差し、早口でそう言うと廊下をヒラリと走り出した。
その姿にぼんやりしていたはずの視界のピントが、まるで高性能のオートフォーカスのようにピタリと合った。
ものすごく綺麗なフォームで走る人だ。
今まで俺は双子の弟のルキくらい綺麗なフオームで走る人を見た事がなかった。でも、その人はルキの正確で力強いフォームとは違って、しなやかで流れるようなフォームだ。