かと言って、このままここに居たって雨が止むとは思えない。
「仕方ないか…」
激しく振り続ける雨に溜息を吐いた後、諦めて帰ろうとした時だった。
「なぁ、お前、早退すんの?」
いきなり背後から声を掛けられて、驚いた。
でも、熱で脳みそ沸騰寸前だった俺は、驚き具合とは反比例したノロノロ具合で声のした方へ振り返る。
ずいぶん背の高い人だった。
知らない顔だし、一瞬3年生かなと思ったけど、制服のズボンがチェック柄だ。
高等部の人みたいだけど、どうして中等部の昇降口に居るんだろう?
「聞こえてる?」
「あ、はい……早退です」
「ふうん。で、何で高等部の昇降口から帰ろうとしてんの?靴、持ってきてる?」
「え?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
だから俺はずいぶんマヌケなキョトンとした表情をしてたんだろう。
「マジで分かってないの?ここ、高等部の昇降口だぜ。中等部の昇降口はあっち」
たった今、自分が歩いてきた方向を指差されて、俺は首を傾げてしまった。
え?
だって、俺、保健室を出て廊下を左に……
「あっ!」
そうだ。中校舎にある保健室は廊下を挟んだ校舎の北側で、中等部の校舎に行くには右に行かなきゃならないんだった。