そこには昨日、寝ていた孝輔の腕に俺が書いた You belong to me ≠フ文字がしっかりと残っていた。
けっこう消えないもんなんだな。
「占有権を主張したのは孝輔が先だろ? だから俺も主張してみただけだし」
「だからって、油性ペンで書くとかありえねぇ。 ちっとも消えやしねぇから長袖着てくる羽目になったんだぞ」
「それを言うなら、俺だって第一ボタンまでキッチリ留める羽目になったっての」
指をかけて襟をグイッと押し下げながら、くっきり残る皮下出血の痕を見せつけてやると、孝輔はぐっと黙った。
その後、ちょっとばつが悪そうに俺を睨む。
「…仕返しかよ」
そんな孝輔から視線を逸らすと、俺もボソッと反論する。
「バカ……好きって気持ちのお返し≠セろ」
「ウっ…」
ちょっとばかり拗ねたような口調になって恥ずかしくなった俺と、予想外だったのか僅かに片眉を上げて言葉に詰まった孝輔。
二人の間に降りた沈黙を先に破ったのは孝輔の方だった。 その声がどことなく切羽詰まっているようでおもしろかった。
「奏多、お前ってマジでタチが悪ぃ。 こんなトコで触りたくなるようなコト言いやがって」
「学校では、お触り禁止デス」
思いっきり舌を突き出してあかんべえしてやると、また孝輔が唸った。
「お前マジでやめろ。 …っ可愛すぎんだよ……そういうコトされると、もっと占有権を主張したくなるだろうが」
途中、何を言ったのかよく聞こえなかったけど、とりあえず「やれるもんならやってみろ」と言い返した。
孝輔はまた目を眇めた後、俺に向かって睨みを効かせながら呟いた。
「…覚えてろよ」
すかさず言い返す。
「お前こそ」
しばらくの間 睨み合った後、二人してプッと吹きだした。
その瞬間、校舎の間を抜ける初夏の風が渡り廊下を通り過ぎて行く。
きっちりと詰まった首筋にうっすらと汗を浮かべていた俺は、その風にほんの少しだけ涼しさを感じた。
END
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