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「奏多、さっきの和訳できたのか?」
「ん〜? もうちょっと…」
孝輔の問いかけにそう答えたものの、教科書に視線だけ落としていてる俺の目は単語の一つも見ようとはしてない。
というか、完全に見るコトを拒否してると言った方が正しいのかも。
「もうちょっと、もうちょっとって、それ訳し始めてもう15分は経ってるだろ」
「……」
俺、冴木奏多(さえき かなた)は、この春、通っている某私大付属高校の3年生に進級した。
2年の梅雨時にちょっとした事件があって、すったもんだしたあげく俺はそれまで親友としてつき合ってきた同級生の佐川孝輔(さがわ こうすけ)と、いわゆる恋人関係になってしまった。
共学校に通っているのに、なんでこんなコトになったのかは未だに謎ではあるけど、好きになってしまったものは仕方ないと開き直って日々を過ごしている。
幸いにも(?)俺と孝輔が特に仲良くしている友人、木下と岡田の二人も幼馴染で恋人同士という間柄だから、この関係があまり特別なコトのような気はしていない。
つか「両想いなんだからそれでいいじゃん」みたいな感覚だ。
孝輔と俺は同じ私鉄の同じ線を使って通学してるから学校帰りはいつも一緒で、そのまま遊びに行ったり、時々孝輔の家に寄って宿題をしたりする。
で、今日は来週に控えた学力テストの試験勉強と宿題をしに、いつもの如く孝輔の部屋に上がり込んでいるわけだ。
「奏多、お前ホントは全然考えてないだろ…」
孝輔の指摘につい口を尖らせる。
「だって、英語嫌いなんだよ。 それについこの前に中間テストが終わったばっかなのに、なんで今度は実力テストなんだよ」
「俺に聞くな。 つか、受験生なんだからこの先 模試だなんだって、もっとテストばっかになるんだぞ」
「もう嫌だぁ」
バタリとテーブルの上に倒れこんだら、孝輔に教科書で頭を叩かれた。