ダルい。
雲一つない快晴の空を見上げて、俺は小さくため息を吐いた。
まだ6月にもなっていないというのに、今日は朝から暑すぎる。
やる気のない体をダラダラさせながら学校の正門に続く坂道を上っていると、いきなり後ろからスクバでケツを叩かれた。
「よっ、奏多」
横に並んだ木下をジロリと睨んだけど、文句を言う気にもならない。
「はよ…」
「なんだよ、元気ねぇな……というか、今日って服装検査あったっけ?」
いきなりの木下の一言にドキッとした。
でも、それは顔に出さないように気をつけながら「さぁ?」と答える。
もちろん、今日は服装検査なんて無い。 でも、なんでそんなコト聞くんだ、とかは禁句だ。
木下が何を言いたのかなんて、俺にはよく分かっているから。
細かいところにツッ込まれる前に話題を変えてしまおう。
「それよか、お前 英語の宿題やってきた? 俺、途中までしかやってないから、やってきたんなら写させろよ」
「やってるわけないだろ。 でも俺には心強い当てがあるから」
なるほど。
岡田に見せてもらう気だな。 よし、俺もそうしよう。
とりあえず宿題の当てができたコトで少し気の緩んだ俺は、ついウッカリいつもの癖でネクタイを緩めようとして手を止めた。
俺のその仕草を目ざとく見つけた木下は、聞かれたくないコトにするどく切り込んできた。
「で? 奏多は何でそんなにキッチリとネクタイ締めてんだよ。 つか、シャツの第一ボタンまで留めてるじゃん」
ひょいと伸ばされた木下の人差し指がシャツの襟と首の隙間に差し込まれたもんだから、慌ててその手を叩きのける。
「っ痛ぇ」
「……」
できるコトならスルーして欲しかったのに。
朝イチで木下にあったのが運の尽きか。
もっとも俺は普段からネクタイをまともに締めたコトなんて無いんだから、聞かれても仕方ないのかもしれないけど。
「今日は天気予報で夏日になるって言ってただけあって、朝から暑いよな?」
俺が叩いた手をわざとらしくひらひらさせながら、何か言いたげにニヤニヤ笑う木下の方は向かず前だけを見る。
「別に…心境の変化」
「へぇ、そうなんだ」
くそ、コイツ察しがついてて言ってるな。 元々 目ざとい上に勘のいいヤツだからな。
とはいえ、俺がこの不慣れなカッコをしている理由なんて言えるはずもなく、ひたすら木下のニヤニヤ笑いを無視するしかなかった。
そう言えるわけがない。
事の発端は、昨日のコトだ。
ふと、ネクタイをキッチリ締めなければならなくなった理由を思い出してしまい、悔しさ半分、恥ずかしさ半分という複雑な思いに駆られた俺は、それを振り払うみたいに坂の上に聳える正門を見上げた。