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□『 True Love なんて いらない 』 完結15
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「結有!? そこに居たのかっ?」

 痛みせいで涙の浮かんだ目を向けると、驚いた顔の祥悟がいた。

(あぁ、俺、祥悟さんのこの顔も見たコトがある…)

 既視感に被る祥悟の顔がみるみる滲んでいく。
 それが溢れ出しかけた涙のせいだと気づくのに、僅かな時間を要した。
 祥悟を見上げたまま動けない結有の腕に祥悟の手が触れ、ゆっくりと立ち上がらされる。

「大丈夫か? 結有、痛いのか? スゴイ音がしたけど…」

 今の結有の不安とは掛け離れた祥悟の心配げな声に、視界が更に滲んで歪んだ。

「杉本君から今連絡があって、結有がこっちに向かったって言うから……」

 そこまで言って言葉を切った祥悟は一瞬黙り込み、次の瞬間、結有の体を抱きしめてきた。
 不意の出来事に結有は指一本動かすコトができずに、されるがままに祥悟の胸に寄りかかる。

「ごめん、結有。 ごめんな…」

 何の説明も無く、ただ「ごめん」と繰り返す祥悟に抱きしめられたまま、結有は押しつぶされそうな不安と混乱する感情の中に僅かな嬉しさを覚えながら言葉に詰まる。
 祥悟に会ったら真っ先に聞こうと思っていたはずの問いも何も出てこない。
 共用廊下の薄暗い明かりの下で祥悟の腕に包まれて、ともすれば抜けて行きそうな足の力に気を取られていたせいで握り込んでいたはずの手の力が抜けた。
 途端に足元にボストンバックが重く鈍い音を立てて手の平から滑り落ちる。
 その音が合図だったかのように、祥悟が体を離す。
 触れ合っていた場所を冷たい風がすり抜け、結有は僅かに体を震わせた。

「俺…」

 祥悟の本当の気持ちが、逸らされた視線の理由が聞きたいと思いながらも、思うように言葉が出ない結有の頬に祥悟の手が触れる。
 温かで大きな手の感触に、止まったはずの涙がまた零れそうになる。

「結有、話がしたい。 聞いてくれるか?」

 揺れる感情に呼応するように上手く焦点の合わない結有の目を覗き込むように祥悟が見つめてくる。
 何を聞かされるのかと思うと怖くて堪らないが、それでも聞かなければと黙って頷く。
 優しい仕草で背中を押され開け放しのドアから招き入れられた結有は、何も言わずに祥悟に従った。


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