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マンションの立ち並ぶ通りを歩き続ける結有の歩調は知らず知らず速くなっていた。
早く祥悟に会いたいというよりは、確かめたいという思いが結有を追い立てている。
祥悟に聞きたいコトは一つしかない。
どうしてあの時目を逸らせたのか?
太一の話が真実ならば、祥悟が結有から目を逸らす理由は何もないはずなのに。
(もしかしたら俺の早とちりで、聞いてみたら笑っちゃうような理由かもしれない)
そう思いながらも不安が消えたわけではない。
本当の理由を知るまでは、と結有の逸る気持ちは治まりそうになかった。
祥悟に会って聞かなければ。 そんな思いに突き動かれされる結有の視界に目指すマンションが見えてくる。
12階にある祥悟の部屋に灯りがついているのが、地上から見ても分かった。
あの場所に祥悟がいる。そう思うだけで押し迫る感情に胸が苦しくなる。
いつの間にか駆け足になっていたせいで上がった呼吸をエレベーターの中で整えて、結有は祥悟の部屋のドアの前に立った。
けれど、あんなに急いで来たはずなのにインターフォンを押そうと伸ばした指は寸前で止まってしまう。
(…怖い)
急く気持ちだけを意識して不安から目を背けていたものの、いざ祥悟に会うとなると一気に不安が押し寄せて来て結有は動くコトができなかった。
一度は伸ばした指先を手の平の中に握り込み、その手が下がるのと一緒に視線も落ちる。
今日だけで何度見つめたか分からない自分のブーツの爪先をまた見つめた。
祥悟に会って聞かなければと思うのに、聞くのが怖い。
もし結有を拒否する言葉を聞かされたらと思うと、体が石のように硬直してしまいそうだ。
不安が結有を躊躇わせ、ドアの前で身動きできずに立ち尽くす。
太一にもらったはずの勇気はここまで来る道程で総て使い果たしてしまったのか、と握った手を更にキツく握り込んだ時だった。
ドアの開く気配を感じる間もなく、ゴンッという音と共に脳天に激しい痛みと衝撃を感じる。
けれど、結有が最初に感じたのは痛みや驚きではなく、既視感だった。
(何だこれ、デジャブ? 前にもこんなコトがあったような…)
頭を押さえてしゃがみ込みながら、結有は呻いた。
そんな結有の頭上から、慌てた声が降ってくる。