ようやく何の話だか理解したらしい先輩は、ばつの悪そうな顔で俺から目を逸らして小声でぶつぶつと呟いた。
「…なんで知ってんだ。 苗字だって違うし、こっちの支社じゃまだバレてないはずなのに…」
「やっぱり隠してたんですね。 藤井さんが知ってて俺が知らなかったなんて、正直俺だってショックでしたよ」
「藤井から聞いたのか……確かに副社長は母方の爺さんの歳の離れた弟で、俺の大叔父だけど…そんなのは関係ないって言うか……」
言いよどむ先輩に正座のままズイッと近寄り、さらに下から見上げると困ったように唸るのが聞こえた。
「別に言うほどのコトでもないと思ったんだ。 それに――」
「それに?」
「んなコト話して、詢に…縁故入社したと思われたら嫌だなって…」
「そんな理由っ!?」
思わず叫んだ。
話してくれなかったコトであんなにショックを受けていた自分がバカみたいに思える理由に、それ以上言葉が出なかった。
「そんな理由って言うけどな、俺には大事なコトだったんだよ。 好きな奴に格好悪い誤解なんてされたくない」
呆れていたはずなのに、「好きな奴」なんて言われてつい嬉しくなってしまい、今度はそんな自分に呆れる。
それに先輩がそんな子供みたいなコトを考えているコトにも驚いた。
俺にとって先輩はいつだって大人でカッコよくて完璧な存在だったのに、拗ねたようにそっぽを向く姿が妙に可愛く見える。
でもそんな先輩も愛しくて、俺は膝を付いて腰を上げると先輩の拗ねた顔に手を添えてこちらを向かせた。
「なんだよ、カッコ悪ぃって笑いたかったら笑え」
「格好悪くなんてないですよ。 でも、意外だったかな?」
「詢の前ではいつもカッコつけてんだ。 本当の俺は…もっと、ずっと情けねぇんだよ。 …減滅したか?」
「全然…なんか前よりもっと好きになりました。 俺は情けない先輩も、全部見たい…」
「やだね、誰が見せるか」
いきなり手首を掴まれキスされた。