「大方、荷物やダン箱が散乱してるんだろ? 俺は気にしないけどな、ベッドが使えるなら」
俺の慌てようなんてキレイにスルーして先輩は寝室に入っていく。
そこは先輩の想像なんて遥かに越える惨状だったのに、それをものともせず器用に荷物の合間を縫って歩いて行く。
俺はと言えば、先輩に手を引かれているにも関わらず、途中何度か物につまずいて積んであったCDや衣類のタワーを崩しながらベッドに辿り着いた。
サッサとベッドの端に座った先輩が、エアコンのリモコンを操作しながらネクタイを外す。
そうして所在無げにその場に佇むコトしかできない俺に向かって、耳を疑うセリフを言った。
「自分で脱いで」
「は?」
「あれ、自分じゃ脱げない? じゃあ脱がせて≠チて言えよ」
言えるわけがない。 そんなセリフが言えるくらいなら、こんなところで立ち尽くしてなんていないだろう?
俺の性格を知っていて、先輩はわざとそんな意地悪を言っているんだと思うと余計に動けなくなる。
ところが次から次へと俺にはハードルの高い要求をしてくる先輩は、俺に拒否権が無いのを良いコトに更にありえないセリフを言ってみせた。
「前みたいなエロい詢を見せろよ。 そしたら俺を疑ったコト、チャラにしてやる」
「!?」
そこまで言われてさすがに呆れたというか、納得がいかないものを感じて俺は先輩の前におもむろに正座すると下からジッと先輩を見つめた。
先輩は何なんだとばかりに、ちょっと驚いたような顔で俺を見下ろしてくる。
「先輩、確かに俺は先輩を疑いました。 それは動かしようのない事実だから責任を取れというなら取ります。 でもね、先輩だって俺に隠し事してますよね?」
「隠し事?」
何のコトだか分からないとでも言いたげに先輩は首を傾げて俺を見下ろす。
その胡乱な顔を見返して俺は続けた。
「なんで隠してたんですか? 副社長の親戚だってコト」
「あっ!」