これはもしかして、いや無いだろう、でもまさか、ありえない、と勝手に妄想が膨らんだり萎んだりしていく。
先輩の言葉をどう捉えたらいいのか分からずに、縋るみたいな上目づかいで見上げると何だか複雑そうな表情で俺を見下ろしてきた。
僅かに唇を尖らせた顔は、渾身のギャグがスベッた時みたいな何だか困り果てているようなものだった。
「なんか反応しろよ……一応プロポーズなんだから」
「っ!」
まさかと思った妄想が本当になった瞬間、ぶわっと顔に血が上った。
言葉なんか出なかった。
呆気にとられた顔のまま先輩を見つめ続けていると、いきなり先輩が慌てだす。
「バカ、泣くなよ」
言われて自分が泣いていたのだと気づく。
バカと言いながらも、優しく抱きしめてくれる腕にまた涙が零れてしまい、それを手の甲でグイッと拭った。
「お前、昨日から泣き過ぎだろ」
呆れたように先輩が笑う。
確かに俺は涙腺が弱くてちょっとしたコトでも泣いてしまうけど、昨日のも今日のも先輩のせいだ。
俺を泣かすのはいつも先輩じゃないか。
「バカは先輩だ。 やってるコト、メチャクチャじゃないですか…」
「何がだよ? 俺は詢を幸せにしたいだけなんだから、実に一貫性が通ってるじゃないか」
笑いながら瞼にキスを落とされて、また泣きそうになったけれど今度は堪えた。
そうして先輩に抱きつくと、その肩口で小さく頷く。 口には出さなくても、それが何に対するリアクションなのか先輩は分かってくれるだろう。
すぐさま毛布の中でキツく抱きしめられた。
もしかしたら、いや、きっと前途は多難なんだろうけど、抱きしめてくれるこの腕があれば絶対に乗り越えていけると、そう思った。
この先も間違えるコトはたくさんあるかもしれない。 でも、そのたびに二人で少しづつ軌道修正をしながら一緒に歩いて行ける道を探せばいい。
ネガティブ思考の俺らしくもなく、ひどく前向きな考えに笑みが零れた。
先輩といると、あまり好きではない自分が変わっていくのを感じる。 そんな俺を先輩がまた好きになってくれたらいいと願う。
でも、涙腺が弱いのだけは治りそうにもない。
幸せな温もりにまたジワリと目元が潤んできたのはバレたくないから、抱きつく腕を強める。
それなのに……
「だから…泣くなって。 詢の泣き顔に弱いんだ、俺は……」
バレているとは思わなかった。
でも、先輩は俺のコトなんて何でもお見通しなんだと嬉しくなって、俺はまた少しだけ泣いた。
[ END ]
☆ 次ページは [ あとがき ]となっております<(_ _)>