羽純 貴之(はすみ たかゆき)
28歳 資材課課長補佐
ぶっきらぼうな態度とやんちゃな見た目がトレードマーク
意外にもエリート街道驀進中。 女子社員に人気がある。
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川瀬 詢 (かわせ まこと)
24歳 資材課課員
要領が悪くて鈍くさいが、素直な性格のために周囲からは可愛がられるタイプ。
つい何でも悪い方向へ考えるマイナス思考の持ち主。 涙腺が弱い。
羽純先輩の転勤騒動から数か月。 マンションの隣同士の部屋で暮らすようになった二人は、つき合ってから初めてのXmasを迎えようとしてた。
1.
会社帰り。
駅からマンションまでの途中にあるコンビニに立ち寄った。
今朝の朝食の時に、食パンが最後だったコトを思い出したからだ。
冷たい風の吹く夕暮れの通りから、扉を開けて一歩入ると店内はホッとするほど暖かい。
クリスマスソングの流れる中、まっすぐ店の奥まで進んでたくさんの種類のパンが並ぶ棚の一番下の段から5枚切の食パンを手に取りカゴに放り込む。
少し考えてから、もう一斤カゴに入れる。
(何度も買いに来るのはめんどうだもんな)
同じ課の先輩であり、上司であり、恋人でもある羽純先輩がマンションの隣の部屋に越して来てから3か月。 先輩はほぼ毎日、俺の部屋で食事をしてる。
低血圧気味の俺とは違って、先輩は朝から食べる量もパワフルだ。
食パン一斤なんて二人では2日ももたない。
俺としては朝食はコーヒー一杯で十分なんだけど、それを口にすると先輩に朝メシ食わないともたないぞ≠ニ叱られるから仕方なく食べているのが現状だ。
食パンだってできればもう少しだけ薄い6枚切にして欲しいのだけれど、大の男が何を言ってるんだと言われそうな気がして我慢している。
将来的に俺が消化器系の病気になったら、それは絶対に先輩のせいだと思うけど、何割かは先輩に言われたコトはなんでも受け入れてしまう意志薄弱な俺の責任でもあるかもしれない。
いや、意志薄弱というよりは惚れた弱み≠チて言う方が正しいのかもしれない。
相変わらず俺は生活のすべてが先輩中心で回っている、どうしようもなく痛い先輩脳≠セ。
でも、それで幸せなんだからいいと思う。
食パンと一緒にカットフルーツと牛乳のパックをカゴに入れてレジに向かう。
会計をしてもらっている時に、ふとレジ台の隅に並べられた商品に目が留まる。
それは直径15センチくらいのクリスマスリースだった。
赤いリボンと小さな金色のベルがてっぺんに着いたリースには、色とりどりの大粒のビーズが散りばめられていた。
会計が終わる前に、それもカゴに入れた。
クリスマスだからと言って男の一人暮らしの部屋を飾り立てるつもりはなかったけど、リースの一つくらい飾ってあってもいいかもしれないと思った。
きっとそれはこの店内に限らず、街を歩けばいたるところから聞こえてくるクリスマスソングのせいだ。
そう、日本中がクリスマスに向けて浮かれまくっているからその余波を受けただけで、決して先輩と過ごす初めてのクリスマスに俺が浮かれているせいなんかじゃない。