「結有、和泉さんに何を聞かされたんだ?」
そんな結有に向かって、太一は肩を掴んで意外にも優しげな声で尋ねてくる。
それが返って癇に障って、結有は太一を見ようともせずにぶちまけるように喚いた。
「祥悟さんと太一は大学の先輩後輩で、俺が誰かに本気になるかどうか賭けてもいいって二人が話してたってさ。 賭けは祥悟さんが勝ったんだろ? 俺は簡単に落ちたんだもんな。 もう、それでいいだろう? こんなトコに連れて来て、二人で俺のコト笑うつもりなのかよ。 バカにすんな! …バカに……もう、これ以上…っ」
顔を上げるコトも、掴まれた腕を振りほどくこともできないまま結有は喚いていたが、悔しさと悲しさが入り混じった複雑な感情のせいで意志とは無関係に語尾がフェードアウトして行く。
そんな自分が情けなくて言葉を詰まらせた時、不意に太一の手に掴まれた腕が引かれ宥めるように抱き締められた。
驚いた結有は顔を上げようとしたが、頭を抱え込まれてそれはできなかった。
そんな結有の上に太一の声が降ってくる。
「落ち着けよ。 お前、やっぱり誤解してる。 橘さんがそんなコトする人かどうかはお前が一番分かってんだろう? 俺のコトはいいけど…」
一旦、そこで言葉を切った太一は小さく溜息を吐いて「橘さんのコトだけは信じてやれよ」と、呟いた。
途端に結有は緊張の糸が切れて足から力が抜けてしまい、軽く太一に寄りかかる。
結有だって祥悟のコトは信じたかった。 それでも瞼の裏に焼きついた祥悟は顔を背けたまま、どうしたって頷いてはくれないのだ。
「俺が隠してたコト、今から全部話すからちゃんと聞いとけ。 その上でどうするかは結有が決めればいい」
そう言って腕の力を緩めても結有が逃げ出そうとしないのを確認すると、太一はすぐ目の前にあったマンションの植栽を囲う低い囲いに結有を座らせる。
太一の言い訳なんて聞くつもりは無かったが、目まぐるしく変わる自分の感情の起伏の激しさにいささか疲れてしまい、結有は「もうどうでもいい」という投げやりな気持ちで黙って従った。