Novel Library 4

□『 Symmetry 』 vol. 4
9ページ/11ページ

 
 またしても壁に背中を打ちつけて、その痛みに呻く。
 でも背中の痛みなんかよりも、感情をむき出しにして掴みかかってきたルキの態度の方がよほど俺を驚かせた。
 一体ルキは何に対して怒ってるんだ?

「な…で、そんな…コト…」

 締め上げられたせいで呼吸が浅くなる。 苦しい息の下、俺はルキに聞いてみた。
 こうまでしてルキが怒る理由が俺にはやっぱり分からない。

「ユキのために言ってんだろ。 中途半端な気持ちで男を好きになったって、傷つくだけじゃねぇか。 男とセックスできないんなら最初から女を選べばいいだろ。 その方がずっと楽に生きてける…」

 だからってルキが怒るコトはないだろう? そう言いかけて、ハッとする。
 ルキは、もうずっと前から俺の気持ちを知っていた。 それだけじゃない。 ルキは南雲先輩のコトも知ってたって…。
 まさか≠ニいう思いが頭を過った。
 でも、ルキの様子が変わり始めたのはいつの頃からだった?
 それまでずっと何でも一緒だったコトを否定するみたいに変わり始めたルキ。
 俺との距離を開けようとしてるようで、それが淋しかった。
 多分、それは去年の夏の始めくらいから始まった。
 俺が、南雲先輩と初めて出会って、片想いを始めた頃とちょうど同じような時期だ。
 俺の中でまさか≠ニいう思いが膨らんで行く。 まさか、そんな。
 でも、俺達は双子だ。 もしかしたら、そういうコトもあるのかもしれない。
 ルキは…いや、ルキも南雲先輩のコトが好きなんだ。

「ル…」

 ルキ、と呼びかけて止める。
 さっきルキは何て言った?
 男とも女ともシたコトがあるって……自分は挿れたコトしかないって……それって、まさか…。
 バカか、俺は。
 有り得ない想像をする自分を心の中で詰る。
 ルキのいう通り、南雲先輩は男に抱かれるようなタイプじゃない。 区分けするなら、どう考えても抱く方だろう。
 それならルキの相手は誰か別の人…?
 そこまで考えて俺は、俺を締め上げてくる腕を掴んでルキを見た。
 一瞬でもルキと先輩がそうだったらと考えてしまったコトが、どうしようもなく悔しい。
 胸の内にじわじわとどす黒い染みが広がって行くみたいに、ルキへの嫉妬が俺の中で大きくなっていく。
 ルキから視線を床に落とした途端、自分の本心が見えた気がした。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]