俺は…例えルキでも、先輩を渡したくない。
「ユキ?」
ルキの腕を掴んだまま急に俯いた俺を心配げなルキの声が呼んだ。
散々俺にしたいコトをしたくせに今更そんな声で呼ぶなんて、なんでそんなに狡いんだ。
緩んだ手の力に、いつもルキは最後の最後で俺に甘いってコトを思い出した。
双子なのに、俺の方が兄貴なのに、いつもルキは保護者気取りだ。
だからって俺はルキには負けたくない。
先輩のコトだけは諦めない。
「渡さない…」
「え?」
呟くみたいな声量だったから、ルキの耳には俺の言葉は届かなかったらしい。
顔上げてしっかりとルキを見据えて宣言する。
「俺は先輩のコトが好きだから、諦めるなんてしたくない!」
「まだそんなコト言ってるのかよ――」
呆れたような口調のルキの手を力一杯振り払う。
驚いたような目が俺を見つめてくる。
そりゃそうだろう。 俺とルキがこんなにも真っ向からぶつかるのなんて、きっと初めてだろうから。
双子だからか、俺達は意見がぶつかるコトすらあんまり無かった。
それに俺が優柔不断なせいで、主導権はいつもルキが握っていたから。
俺が何かに迷ったりした時、指針はいつもルキが決めてくれた。
今日まで俺はそうやってルキに手を引かれて、ルキのいう通りに生きてきた。
でも…。
「傷つくとか、そんなの構わない。 諦めるくらいなら、その方がずっとマシだ!」
きっとルキは、俺を先輩から遠ざけたいんだろう。
このままルキの言うコトを聞き続けていたら、俺は先輩への気持ちを諦めるしかなくなる。
そうと分かっていて言うコトを聞くほど、俺はバカでも意気地なしでもない。
自分の恋の終わりを他の誰かに決められるなんて絶対に嫌だ。
決着は自分で着ける。
ルキに先輩は渡さない。
俺はルキの目を真正面から見つめて言い切った。