『 symmetry 』vol.4
強い力でルキに手を引かれたまま、俺は歩き続けた。
いったいどこへ連れて行く気なんだろう?
やっぱりルキの背中は怒っているようで、とても行き先を聞けるような雰囲気じゃない。
仕方ないから無言のまま俺をひっぱっていくルキに黙ってついていく。
しばらく歩いて、ルキは俺をサッカー部の部室に連れて行った。
運動場の隅に作られたコンクリート製の部室棟は2階建てで、サッカー部の部室はその2階にある。
3年の夏の大会が2週間前に終わって、ルキはそれまで続けていたサッカー部を引退した。
ルキの試合は欠かさず応援に行っていたけど、今年の最後の試合を俺は見ていない。
夏休み前の夜に変なコトをされて以来ルキを避けている俺は、初めてルキの出ている試合の応援に行かなかった。
そのコトについて、ルキは俺に何も言わなかった。
「こんなトコに連れて来て…話って何なんだよ?」
部室に入ってもルキは俺の手を離そうとしなかった。
痛いくらいに握りしめてくるルキの手の力も一向に緩められる様子はない。
返事もしないルキにため息を吐いた俺は、ただルキが話し出すのを待つしかなかった。
ルキが何を話したいのか、何故怒っているのか、俺には全然 検討がつかなかったからだ。
しばらく二人の間に沈黙が流れた後、ルキは手の力を抜かないままにようやく話し出した。
「ユキが俺に隠し事してるの、もうずっと前から気づいてた。 それが、あの高等部の人のコトだってのも知ってた」
「っ…」
ついさっきルキから「あの人のコト好きなんだろ?」と聞かれた時にどうしてバレたのかと驚いたけど、南雲先輩のことも前から知っていたらしいと分かって、また驚いた。
二人で居たところを見られたから気づいたんじゃなくて、もっと前から知っていたなんて…。
「なんで俺に隠してたの?」
そんな風に責められて、つい「そんなコト言えねぇよ」と、拗ねた言葉が口から零れた。
例えルキだとしても、言えるワケない。 そのくらい察しろよ。
「なんで?」
「なんでって…そんなの、分かるだろ? …男同士なんて…変じゃん…」
俯いたせいで、俺の声は小さくなっていく。