「なんだって…いい…」
同じ言葉を呟いた結有の腕を掴むと、立ち上がった和泉はいきなり結有を店の外に連れ出した。
「お前の仕返し≠ノ手を貸してやるよ」
ずいぶん都合のいい言い回しをした後、和泉は迷う素振りも見せず大通りを歩き出す。
結有は引かれるままに無表情で歩いた。
歩きながら、ぶらさげるように持ったボストンバックがやけに重いなと思う。
家を出た時は重さなんてまったく感じなかったのに。
そう思ったら、急に笑いが込み上げてくる。
中身は何が入っているのかなんて思い出せない。 それなのに相当重い。
まるで、行き場を失くした結有の想いが鉛の塊か何かになってバッグの中に押し込められているようだ。
クスクス笑う結有を和泉がチラリと見るのが分かった。
それでも結有は笑うのを止めない。
自分がこんなにもバカだったなんて知らなかった。
騙されていたと知ってもなお祥悟が好きだという想いが無くならない。
(いくらなんでもバカ過ぎるだろ…)
そうやって自分自身を嘲笑うのは、結有の中に漠然とはしていたものの運命みたいなものを信じる気持ちがあったからだ。
誰も本気で好きになんてならない≠ネどと強がっていたけれど、心の奥底では運命の相手に出会えると信じていた自分に気づいた。
そして、その相手が祥悟であればいいと願っていたコトにも。
でも、気づくと同時にそんなものは幻想以外のなにものでもないと悟った。
この世の中に真実の愛なんてない≠ニ最初の恋人に騙された時に学習したはずなのに、性懲りも無く人を好きになってまた騙されて。
こんなコトを何度も繰り返すくらいなら、もう運命の相手になんか巡り合えなくてもいいと投げやりに結有は嘲笑う。
(恋とか愛とか、そんなもの信じない……もういらない…)
祥悟への消えない想いを吹っ切るように結有は自分の手を引く和泉の手を払うと、その腕に自分の腕を絡めた。
驚いたような和泉が結有を見下ろしたが、結有は何も言わずに和泉の腕に体を寄せる。