もしあの時、結有が太一の言葉を真剣に受け取っていたとしたら、二人は違った今を過ごしていたのかもしれない。
そう考えて後、すぐに心の中で首を振る。
(やめよう。 今更だ…)
あの頃、二人ともが気づいていなかっただけで気持ちが通じ合っていたのだとしても、もう総てが終わったコトでしかない。
太一は別の男を選び、自分は……。
これが縁がなかった≠ニいうコトなのだろう。
太一と結有は、互いが運命の相手ではなかったというコトだ。
それならば、と結有は思う。
(祥悟さんと俺はどうなんだろう?)
そう考えた途端に結有は泣きたくなるくらい淋しくなる。
恋愛感情を賭けに使った祥悟と騙された自分との間に縁があるとは到底思えない。
どう足掻いても結有は祥悟の運命の相手ではないのだ。
(祥悟さんは賭けに勝った後、俺とのコトをどうするつもりだったんだろ?)
こんなにも簡単に騙されたというコトは、祥悟は賭けに勝ったというコトなのだろう。
総てを明かして結有との関係を終わらせるつもりだったのか、それとも最後まで何も言わずにフェードアウトするつもりだったのか。
どちらにせよ二人の関係が終わるのは、そう遠い先の話ではなかったようだ。
それなのに1人で浮かれていたなんてと、自分のバカさ加減に閉じた瞼に熱いものが滲む。
哀しみを太一に対する怒りにすり替えようとしても、思考は祥悟への絶ち切れない想いへと返っていく。
際限のない哀しみとやるせなさに沈み込んでいく結有とは逆に、タクシーはいつの間にか快調に走り出していた。
「縁があるとか無いとかいうの、前はぴんと来なかったけど、俺も今なら分かる気がする」
独り言のように太一が呟いた。
「俺はアイツを理解してるつもりだったけど、本当は何にも分かってなかったのかもしれない。 簡単に他人に本心を見せるような奴じゃなかったし…」
「痛い目にあってると猜疑心も強くなるだろうからねぇ」
同情するような運転手の声にそうだね≠ニ呟いたあと、太一が小さく笑うのが聞こえる。
「…あんなハリネズミみたいに全身で他人をガードしてたくせに…あの人にだけ簡単に心を開いて…」
それは本当の独り言だったようだ。
隣に座る結有の耳にすらハッキリとは聞き取れないほどの小さな声だった。