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□『 True Love なんて いらない 』 完結13
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 黙ったまま視線を逸らした祥悟の顔が目に焼きついて離れない。
 思い出したくないのに、頷かなかった祥悟の横顔が残像となってチラつく。
 目に映るものはすべて涙で霞むのに、そんなものだけ鮮明に見えてしまう。
 残像を振り払うように手の甲で目元をぐいっと拭くと、結有はその足でのろのろと1階にあるバーへと向かった。
 和泉に何かを求めていたわけではない。 ただ、これから自分がどこへ何をしにいったらいいのか分からなかっただけだ。
 入り口のドアを開けると、スタンディングバーのテーブルに肘を着いた格好の和泉が目聡く結有を見つけて手を上げる。
 何の表情も浮かんでいない顔で結有は和泉の隣に立った。

「ここへ来たってコトは、承諾したと解釈してもいいんだな?」

 どこか遠くに感じられる和泉の声には答えず、結有は顔を覗き込んでくる和泉をぼんやりと眺めながら呟く。

「やっぱり、鬼門なんだ…」

 祥悟と結有と宵待草=B
 この三つが揃うとろくなコトがない。 そんな不安を持っていたが、まったくその通りになってしまった。
 今日宵待草≠ナ待ち合わせなんてしなければ、本当のコトなんて知らずに済んだのに。
 そうすれば今まで通り祥悟のそばに居られたかもれしない。
 何事もなく祥悟の誕生日を迎えられたかもしれない。
 いつか騙されたと気づくとしても、それを先送りにできたかもしれない、と結有は思った。
 不思議と激しい怒りは湧いてこない。
 祥悟に向かって「嘘ばっかりだ」と叫んだ時でさえ、怒りより悲しさの方がずっと強かった。
 初めての恋人の鬼畜な所業を知った時も、太一に一方的に関係を清算された時も、悲しいのと同じくらいに怒りも感じていたのに、何故今はこんなに悲しいだけなんだろう。
 呟いたきり、黙り込んだ結有の顔を覗く和泉が小さく聞き返して来た。

「何?」

 それにも答えるコトはせず、結有は投げやりに言った。

「…もう、なんだっていい」

 知らなければ何も無かったコトにできたのに。
 知ってしまった以上、確かめずにはいられなかった。
 そしてすべてを知った結有を、祥悟は追いかけて来てはくれなかった。
 それが終りを示していると気づくのは難しいコトではない。
 結有は祥悟を失ったのだ。
 
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