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学食の食券販売機の前で結有は表示された文字をぼんやりと眺める。
2限に授業を入れていない結有は3限の必修科目の前に昼食を済ませようと学食へ来たために、昼には時間が早く学生の数はまばらだった。
これならば昼食を食べながら、男の結有が料理本を開いていても誰かに見咎められるコトはないだろうと僅かにホッとする。
祥悟の誕生日のプレゼントとして約束した手料理は、思っていた以上に結有の頭を悩ませるコトになっていた。
元より結有のレパートリーなどあって無いようなものなのに、安請け合いしたコトを少し後悔している結有だったが今となってはどうにもならない。
料理本を買ってはみたものの、知らない食材や道具も多くてなかなか読み進められない。
祥悟と電話で話した日以来、結有の頭の中は料理のコトでいっぱいだった。
とは言え、学食のメニューの中に結有の探す答えがあるはずも無く、小さく溜息を吐きながら日替わりAランチのボタンを押した時、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると同じ選択科目を取っている友人が二人立っていた。
「結有、今からだろ? 一緒しない?」
「何にした? Aランチか、俺もそれにしよ」
バッグの中の料理本の存在が気になったものの、どうしても今見ないといけないわけでもないし、他に断る理由も無くそのまま3人で各々の昼食を手に空いたテーブルに座った。
取り留めも無い会話をしながら箸を進めていると、席を探しに来た知り合いの女子学生を見つけた友人の一人がその子達を呼び、テーブルは一気ににぎやかになった。
話に参加しながらも料理のコトが何となく頭から離れない結有は、さり気なく皆の昼食メニューに目をやった。
Aランチが2人、から揚げ定食が1人。
女子達は、パスタとオムライスとクラブハウスサンドだ。 それをちまちまと分け合っている。
ふと思い立ち、結有は会話の合間に聞いてみた。
「なぁ、特別な日の料理って言ったらなんだと思う?」
「なんで急に、そんな話?」
きょとんとした顔で聞き返してきた友人に「いや、なんとなく」と返すと、特に気にした風でもなく答えてくれた。
「うちは何かあると決まってすき焼きだったな」
「あ、うちもそうだよ。 リクエストしないと自動的にすき焼きにされちゃう」
サンドイッチを手に答えた女子に、友人が「そうそう、どうしたって毎回固定なんだよな」と相槌を打ちながら笑う。