「なんで…」
電源を落とした覚えなんてない。
だって俺は、折口からベルが入るのをずっとずっと待ってたんだから。
充電切れなんて考えられない。
だとしたら、他に理由なんて…。
そこまで考えてハッとした。
まさかという思いで先輩に目をやると、先輩は酷く悲しそうな目で俺を見ていた。
あの時、先輩にストラップを見せて欲しいと言われてケータイを渡した。 俺がケータイを手離したのは後にも先にもあの時だけだ。
「先輩…」
信じがたい事実に戸惑う俺の声に、先輩は黙ったまま俺を見つめ返してくる。
どうして先輩がケータイを切ったのかなんて、聞かなくても分かる。
だけど俺は先輩を責める気にはなれなかった。
好きな人を他の奴に渡したくないって気持ちは、俺自身も経験して分かってるから。
でも、総てを察した折口は容赦なかった。
「そういうコトですか。 ハッ、ずいぶん卑怯なマネをするんですね。 見損ないましたよ、岩井先輩」
冷たい口調で先輩を睨みつける折口は さすがに言い過ぎのような気がして、止めようと掴んだ制服をギュッと握りしめた時だった。
先輩が俺に向けるものからは考えられないようなキツい視線を折口に向かって投げつけた。
「お前って、園田の何なの?」
先輩の問いに、言われた折口より俺の方が慌てた。
折口は俺の…何なんだろう?
というか、折口はなんて答える気なんだ?
折口の答えが気になってソッと窺い見た時、その顔は「愚問だ」とばかりに嘲笑を口許に浮かべていた。
「前にも言いましたよね? あの時と答えは同じです」
俺には意味が分からなかった。
あの時って、何だ?
それに対して何も答えない岩井先輩には理解できてるんだろうか?
折口の顔からまた先輩に視線を移すと、先輩はじっと俺を見ていた。