「へっ? あ、何が?」
いきなり後頭部をつかまれたせいで思わずドキンとして聞き返すと、先輩はクスクスと笑う。
「いや、後半はさ、もっと園田がびっくりするような仕掛けやお化けが待機してたからさ。 園田の慌てる姿が見られなくて残念だってコト」
俺、完全にビビりだと思われてる?
つか、確かに驚かされっぱなしだったけどさ。
「十分驚かされましたよ。 思いっきり転ばされたし」
電気が点いてしまえば、お化け屋敷は単なる板で仕切らたれ通路でしかなくて、ところどころに仕掛けの一部が見えている箇所もあった。
明るいお化け屋敷ほどマヌケな物はないなと思いながらも、こんな物で驚かされたのかと思うと悔しさが倍増する。
心の隅に引っかかったままの先輩の行動を、驚かされたコトへの腹立たしさで誤魔化していたら、急に神妙な声で先輩に呼ばれた。
「なぁ、園田…」
「はい?」
「なんであの時、俺のコト掴まなかったの?」
あの時…っていうのは、俺が転んだ時のコトだろうか?
他に先輩を掴まなきゃいけないようなシチュエーションは無かったから、多分そうだろう。
「だって…あの状況で先輩に掴まったら、絶対に先輩も転んでましたよ? さすがにそれは無理っつーか…」
「…遠慮したってコトか?」
「まぁ、そうです」
つか、それって当然だろう?
俺が転んだのに、先輩を巻き添えになんてできるわけない。
俺の答えに先輩は「そうか」とだけ言った。
なんでそんなコトを聞くのか不思議に思ったけど、俺はそれを聞けなかった。
ちょうど入り口まで戻った所で、先輩が同じクラスらしい女子に話しかけたからだ。
「何があったの?」
「あれ? 岩井君、中にいたんだ? なんかね、出口近くの所でビックリし過ぎたお客さんが壁にぶつかってベニヤ板とセットを壊しちゃったらしいよ。 ベニヤも木枠も折れちゃったらしいから直すの時間かかるみたい」