何かが壊れるようなベキベキという音が聞こえた瞬間、先輩の手が俺から離れて立ち上がる気配を感じた。
「っ…」
大きな音に驚いたのと同時に先輩が離れたコトにホッとする。
何だったんだ?
先輩も、今の大きな音も…。
俺の気のせいなんだろうか? と言っても、音の方は気のせいじゃないけど。
気づけば、いろんな方向からざわめきが聞こえる。
多分、俺達以外の客も今の物音に戸惑ってるんだろう。
「おい、俺、岩井だけど何かあったのか?」
暗闇の中、先輩がベニヤ板の壁を叩きながら呼びかけている。
すぐに板の向こうから返事が来た。
「いや、ちょっと俺らにも分んねぇ。 出口の方で何かあったみたいだけど…」
どうやら物音は予測不可能な事故か何かみたいだ。
そう思った瞬間、会議室の蛍光灯が一斉に点けられて辺りは一瞬にして明るくなった。
急激な明暗の差に思わず目を細める。
「すいませーん。 ちょっと緊急事態で出口が通れなくなっちゃったんでぇ、ルートの途中にいるお客さんはぁ、入り口の方に戻ってもらえませんかぁ」
出口とおぼしき方向から指示されて、辺りのざわめきが動き出すのが分かった。
皆、入口へと引き返し始めたんだろう。
「仕方ない、戻るか」
何事もなかったかのように先輩に肩を叩かれて、俺は急いで立ち上がる。
急に明るくなった室内で、俺一人がさっきの出来事を引きずっているようで先輩の顔なんて見られなかった。
あれはホントに何だったんだ?
先輩が何をしようとしてたのか、分からないだけに余計に悶々とする。
「残念だったな…」