「だ、大丈夫っす。 ちょっと痛いけど、そのうち治まるんで…」
「園田って、粘膜弱いんだな」
クスッと笑う笑顔に対して、俺は引きつり気味の笑みを返すので精一杯だ。
先輩の思いもよらない行動に、唇どころか顔まで赤くなってるような気がする。
やっぱ、これって変…だよな?
でも先輩はまったく気にして無いみたいだ。
その様子からすると先輩に他意は無くて、ただ単純に俺の唇が腫れてるのを心配してるだけってコト…なのかな?
それなら、慌てたりするのは俺の過剰反応だろう。
ところが、掴んだ先輩の手が俺から離れていくのを安堵の思いで見ていた次の瞬間、その手は俺が持ったままだったポップコーンを一つ抓んで俺の唇に押し付けてきた。
「甘いの食べたら治るかも?」
「……」
やっぱり変だ、今日の先輩。
そう思ったけど、周囲が気になるし、かと言って先輩の手を叩き落とすコトもできなくて、見られる前にと押し当てられたポップコーンを素早く口に含んだ。
キャラメルの甘い味が舌に感じるのと同時に先輩の指が離れて行き、今度こそ安堵の溜息を漏らす。
あぁ、恥かしかった。
何事も無かったように歩き出し、俺についてくるよう笑顔だけで促した先輩を見ながら居たたまれない思いを感じる。
周囲にいた奴らは見ていなかったのか特に気にした様子は無さそうだったけど、見られていたんだとしたら俺はかなり恥ずかしい。
先輩が一体何を考えるのか分からないけど、明らかにいつもと違う先輩の態度に、不意に折口から言われたコトを思い出した。
『岩井先輩には気をつけろ』
以前から再三言われているコトだけど、俺自身は岩井先輩から変な秋波を送られた覚えはない。
だから折口の気のせいだと言い続けて来た。
もともとスキンシップの多い人だし、それに嫌悪感を感じるようないやらしさは無かったんだ。
でも、今日の先輩は…。
「バレー部、上手く行ってるみたいで良かった」
「え?」
唐突に話し掛けられて、先輩の行動に戸惑っていた俺は思わず聞き返した。