「毎年、後夜祭で行われるファイヤーストームを誰にも邪魔されず二人っきりで見ると、その二人は永遠に結ばれるというジンクスが創立当時から語り継がれてるんすよ」
「……で?」
得意気に話す後輩のノリについて行けずに気持ちのすべてが一文字に集約された俺の返事に、後輩は両手を広げて首を振るというオーバーアクションで返して来た。
こいつ、なんかムカつくな。
「バカバカしい。 そんなの、ホントなワケないだろ。 信じるなよ」
せせら笑いながらそう言うと、後輩は口を尖らせて俺に詰め寄ってきた。
「何言ってるんですか。 火の無い所に煙は立たないんですよ。 信憑性のある話だからこそジンクスになったんでしょうが。 これは絶対マジもんっす」
「ありえねぇ…根拠も何んもねぇ話じゃん」
あまりにもバカバカしくて思わず呟くと、後輩はチラリを俺を見やった後、勝ち誇ったように笑った。
「化学の青木先生いるじゃないっすか。 あの先生の奥さんってうちの卒業生なんスけど、奥さんが在学中に二人でファイヤーストーム見たらしいっすよ。 生き証人だっているんすから、これはマジネタです」
「一組だけじゃん」
半ば呆れてそう言うと、後輩は同情するような視線を俺に向けた。
「先輩、いくら現実が悲しいからって、夢くらい見ましょうよ」
「誰の現実が悲しいってんだ! え? 言ってみろ、てめっ」
こいつ、さっきから俺に対して言いたい放題だな。
俺より背が高いからって、いい気になるなよ。
次の部活で絶対に集中特訓してやる。
「まぁ、信じる信じないは個人の自由だしな」
それまで笑って俺達を眺めていた先輩が、間に入って話を終結させた。
「まぁ、そうっすけど…で、岩井先輩、俺の友達とファイヤーストーム見てやってもらえますか? 可愛い子いますよ?」
「だから、遠慮しとくって。 そのジンクスについては俺も懐疑的だしな」
「そっすかぁ…みんな残念がるだろうなぁ」
みんな≠ニ言うよりは後輩自身が残念そうだ。
こいつ、お見合いおばさんとかできそうだな。
「じゃあ、園田。 そろそろ次に行くか?」
後輩の持ち出したお見合い話をあっさりと断った岩井先輩が立ち上がったのを機に、俺も席を立った。