振り返った俺の視線の先に、バレー部の岩井先輩の姿があった。
「岩井先輩…」
先輩は同級生らしい友人何人かと階段の最上段に立っていた。
岩井先輩と会うのは久しぶりだ。
3年生はもう部活を引退しているし、校内では生活エリアが違うから廊下でバッタリ会うなんてほとんどないもんな。
「どうした? 友達とはぐれたのか?」
ケータイを手にした俺を見て、先輩は迷子を見つけた大人のような心配気な顔つきで俺を見下ろしてくる。
そんな顔をされるなんて、俺は一体どんな様子に見えたんだろう?
「いえ…ちょっと時間が空いちゃったんで……」
まさか、折口が構ってくれないから拗ねてるなんて理由を口にするわけにも行かないよな。
だから曖昧に言葉を濁して強張る顔で笑ってみせた。
「なんだ、暇してるのか?」
「まぁ、そんなトコです」
ケータイの送信ボタンを押せないまま答えると、岩井先輩は軽やかなリズムを刻んで階段を駈け下りて来た。
そのまま肘の辺りを柔らかい仕草で掴まれる。
「俺、ここから後輩と動くわ」
「そう? んじゃ、後でな」
いきなりの先輩とその友達の会話に驚いて、思わず隣に立つ先輩の顔を見つめてしまう。
そんな俺に先輩は無言で優しげな笑顔を返してくるから、部活でいつも見ていたはずのその笑顔にちょっとドキッとした。