「結有、聞いてる?」
「え? 何?」
突然声を掛けられて結有はハッとしながら顔を上げた。
見ればソファに座った祥悟が結有に向かって手を差し出していた。
「だからさ、電球いくらだったのかって、さっきから聞いてるだろ?」
苦笑する祥悟に、自分が何度か呼ばれたらしいと気づくが、その声が耳に届いた覚えはまったく無かった。
それほど深く考え込んでいたらしい。
「いいよ、別に」
「そう言う訳にはいかないだろ? だいたいお前はバイトもしてない完全なすねかじりの身なんだから、親の金を使って買った物を簡単にいい≠ネんて言うなよ」
親から学費はもちろん、生活費にこづかいまで面倒みさせている結有なのだから、祥悟の言うコトはもっともだった。
仕方なく結有は半分ほど思考の海に浸ったままジーンズのポケットに捩じ込んであったレシートを取り出して、クシャクシャのまま祥悟に渡した。
(祥悟さん、さっきのキスで何も感じてないのかな? だとしたら理性固過ぎだろっ! やっぱ、買って来たスキン渡すくらいハッキリと言わないとダメなのかな?……って、あれ? 今のレシートって−−)
ふと、何かが引っかかる。
祥悟に渡したレシートは今さっきコンビニで買い物をした時の物だ。
買ったのは電球とスナック菓子と、もう一つ……。
「わぁーっ! 祥悟さん、待って! それ返してっ」
次の瞬間、結有はソファに座る祥悟に飛び付いた。
あまりにも慌てていたせいで、勢い余って祥悟の膝に乗ってしまったコトにも気づかない。
「なんだよ、いきなり…」
文句を言いかけた祥悟の指先からレシートを奪い返す。
そこには電球と一緒に会計した避妊具を示す文字も当然 表示されているはずだった。
「見た? 今、これ見た?」
奪い返したレシートを手の平の中でグチャグチャに丸めながら、引きつる顔で祥悟を見つめる。
そこには目を丸くした祥悟が半ば茫然とした表情で、まるで強盗にでも襲われたように両手をホールドアップさせて座っていた。