そのまま這うようにして、回り込むと祥悟の隣から手元を覗き込んだ。
スケッチブックに細長い形の落書きのような物がいくつも描かれていて、所々に矢印で書き込みがしてある
「これ、デザイン画? 今、何の仕事してるの?」
「ライター。 新製品のタバコの景品なんだ」
そんなものまでデザインするのかと、結有は感心する。
考えてみれば普段 自分が手にする物も、同じ物でも形やデザインの違う物がいくつもあったりする。 そういった物一つ一つがデザイナーの手で生み出されたのだと改めて知った。 と言うより、今まではどんなものでも それをデザインしている人がいるなんて考えたコトもなかった。
「こういうの考えるのも、イ、インダスト…」
「インダストリアルデザイナー」
「そう、それ。 その仕事なの?」
「いや、これはプロダクトデザイナーの仕事だな」
「それってどう違うの?」
「うーん、簡単に言えばプロダクトデザインは広い意味での製品デザインのコトで、インダストリアルデザインもその中に含まれるんだ。 インダストリアルデザイナーは大量生産の工業製品のデザインをする仕事で、それ以外の製品デザイナーはプロダクトデザイナーってコトになるわけ。 俺は元々、企業のインハウスデザイナーとして業務用機器のデザインをやってたんだけど、フリーになってからは業務用機器だけじゃなく何でもやるようになったから、今はプロダクトデザイナーってコトになるんだろうな」
以前、聞いた時に説明してもらっても分からないだろうと思った結有だったが、門外漢過ぎてやはりよく分らなかった。
それでも聞いてみたのは祥悟が黒木と一緒にしていた仕事がどんなものだったのか、何となく気になったからだ。
黒木とはつい先日、予期せぬ二度目の邂逅を果たしたところだが、驚いたコトに黒木は結有を無視するコトなく「どうも…」と頭を下げてきた。
予想外のコトに結有も慌てて挨拶を返したのだけれど、それ以降は変わらずの無愛想さだった。
その様子を見て、なんとなく祥悟が何か言ったんだろうと察しはついたが、祥悟に言われたからと譲歩を見せる黒木に結有は面白くないものを感じてしまった。
嫌いだから≠ニいう理由で、ちょっかいを掛けて来た初対面のゲイに重傷を負わせるほどゲイを毛嫌いする黒木が、祥悟の言うコトだけは聞くなんて二人の仲を勘ぐるなという方が難しいと思う。
もちろん祥悟のコトを疑うつもりは無いが、それほどまでに強い信頼関係を築くキッカケとなった二人の仕事≠ノ興味を持ったのだ。
「あの黒木って人もデザイナー?」