Novel Library 4

□『 True Love なんて いらない 』 完結9
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 笑いながら体を離す祥悟に戸惑って、上手く返事ができない。
 謝られたって体に残る祥悟の腕やキスの感触は消えはしないし、だいいち謝られる理由が分からない。

(謝るんなら、こんな中途半端なところで止めたコトを謝れよ)

 そんな風に考えながら足元に落ちたビニール袋を拾い上げる結有は、終わってしまったキスを残念に思っている自分に気がついていた。
 体の奥から震え出すようなキスを、もっと祥悟としたかった。
 それは紛れもない性的な欲求だったと分かっている。
 もう先程までのように悩むコトも、言い訳すらも必要は無かった。
 結有は自分が祥悟に抱かれたいのだとハッキリ自覚してしまった。

「貸して」

 自分の中の明確な気持ちに気づいた結有がその内容に軽い衝撃を受けていると、いきなり目の前に手が差し出された。
 結有が胸の内で動揺しているうちに、祥悟は電球の取り換えに着手していたようだ。
 切り替えが早いのか、すでに切れた電球を片手で外そうとしている。
 なんとなく釈然としないものを感じながら、結有は電球を外装の箱の中から取り出して振ってみる。
 触った感触と音からは割れた様子は窺えなかったから、そのまま祥悟の手に渡した。
 背の高い祥悟は踏み台など無くても廊下の天井に手が届くらしい。
 電球を受け取ると代りに切れた電球を結有に手渡し、すぐに付け替えを終了させた。

「ちょっと壁のスイッチ入れてみてくれ」

 言われるままにスイッチに触れると、天井から柔らかな暖色系の明かりが広がった。
 優しい光ではあったが、暗闇に目の慣れた結有は予測していたにも関わらず、急な明るさに目をパチパチと瞬かせた。

「これで、よし。 助かったよ、二か所同時に切れるとか思わなかったからなぁ」

 結有の手から電球と箱を取り先程までの薄暗闇とは違う廊下をリビングに向かって歩き出した祥悟の背中を、結有は言いようの無い複雑な思いで見つめながら後を着いていく。

(なんか、祥悟さんって気持ちの切り替え早いよな)

 キスの余韻も冷めやらないうちに自分の本心に気づいてしまった結有は、体の奥に燻る物を無視できなかった。
 今日まで気づきもしなかった欲望が、日数の分だけまとめて押し寄せてきたような気がする。
 祥悟との日々が幸せ過ぎて忘れていた色欲は、気づいてしまえば健康な青少年である結有のプラトニック感など簡単に凌駕していた。
 
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