7.
ぼんやりと天井を眺めていた結有は、ふと気づいた。
ずっと同じ色だとばかり思っていた天井と壁の色が微妙に違う。
祥悟の部屋の壁紙は一見 白に見えるが、僅かに青みがかっているというか、気をつけて見なければ気づかないほど極々薄いグレーだ。
初めは普通に白い壁紙だと思っていたが、ある時それが僅かに色味が付いていると知った。
その時は、薄い水色かと思ったが近づいてよく見るとグレーだった。
モノトーンのインテリアで家具を揃えている部屋がキツい印象を与えないのは、この壁紙の色が部屋全体に統一感を出しているせいかもしれないとその時思った。
でも天井のクロスは壁紙とは違い、普通の白いクロスが張られている。
グレーの壁紙と白い天井クロスの境目は黒色の廻縁で線を引いたように分けられていた。
(天井と壁のクロスの色が違うのって、なんか意味があるのかな?)
床に投げ出したままだった両足を抱えるようにして更に上を向いた時、背中越しに小さな呻き声が聞こえた。
「…重いって…全体重かけるなよ」
祥悟の呆れたような声が互いの背中越しに結有に届く。
「だって、暇なんだよ」
リビングの床に座って仕事をする祥悟の背中に凭れて、結有が雑誌を読み始めてからかれこれ1時間は経つだろう。
紙面のほとんどが写真ばかりのファッション誌などアッという間に読み終わってしまい、暇を持て余した結有はずいぶん前からこうして仕事中の祥悟の背中に凭れてぼんやりしていたのだ。
「少しくらい一人で遊んでろよ」
「一人で何して遊ぶんだよ?」
口ではうるさがっているようなコトを言っていても、結有の体を押し返すようなコトはしない。 何だかんだ言っても、祥悟は背中にある結有の存在を楽しんでいる様子だ。
それが分かっているから、結有も体を動かすコトなく凭れかかったまま言い返した。
あの日、結有の勘違いから思いもよらなかった方向に進み出した二人の関係は、祥悟の言う通りそれまでと何ら変わるコトなく平穏なままだ。
つき合っている≠ニ構えるコトが無意味なまでに変わらない自分たちの関係に、結有は満ち足りた思いと楽観を感じていた。
「何でもいいから好きなコトして遊んでろ。 あと少しで終わるから」
軽く腹筋を使って体を起こすと、ずっと背中を温めていた体温が離れ、感じた空気に淋しさが加わる。