『 SLOW LOVE 』 vol.11
××××××××
「……」
無言のまま玄関ドアを開けると、俺は千早に入るよう勧めるでもなく黙って中に入った。
それを気にした様子もなく、千早は後に続いてくる。
あの後、ちゃんと話をするのを条件に千早の腕から解放された。
今更、部屋に招き入れるのは抵抗があったから駅前のビジネスホテルの部屋でも取ろうかと思ったが、歩いて駅まで戻るには自分の部屋が近すぎた。
逡巡した結果、俺は千早を自分の部屋へと案内するコトにした。
遅くまで空いているカフェやファストフード店でできる話でも無かったし、公園とかだって通りと変わらず人目がある。
つまりは苦渋の選択だった。
「いい部屋だな」
リビングに入るとザッと部屋の中に目をやった千早が、お世辞なのか本心なのか判断のつかない平坦な口調でそう言った。
「冗談だろ。 千早のとこと違って単身者向けの1LDKだぜ」
落ち着け、俺。
今の俺はコトを焦れば、いつも通りの圭を演じるコトができない。
身も世もなく落ち込んだ数日間で疲弊した心と体。 そのうえ不意打ちで現れた千早に激しく動揺しているせいで、総てを取り繕うには相当の労力がいりそうだ。
「広さは関係ないよ。 シンプルで使い勝手が良さそうだってコト」
男の独り暮らしにしては綺麗すぎるほど整頓された俺の部屋を見て、千早がどう思ったかは分からない。
いろんなボロを出す前に早く帰ってもらおう。
「別にご招待ってわけじゃないんだから、サッサと話して帰ってくれよ」
千早の方を見もしないでわざと邪険な物言いで言い放つ。
何かしていないと落ち着かなくて、スーツの上着を脱いでソファの背もたれに引っかける。 ネクタイのノットを指で緩めた時、背後に千早の気配を感じた。
「三波さんのコトが原因じゃないのなら、どうして突然 終わりにしようなんて言い出したの?」
「…言ったろ。 飽きたんだって」