Novel Library 3

□『 SLOW LOVE 』 vol.10
1ページ/13ページ


『 SLOW LOVE 』 vol.10


「相沢さん、製造部の山根さんから電話です」

 女子社員の回してきた外線に出ると、同期の山根が開口一番『なんでお前のケータイ繋がらねぇンだよ』と文句を言ってきた。
 千早に別れを告げてから3日、俺はケータイの電源を落としたまま生活していた。
 あの日の翌日から、俺のケータイの着歴はCS≠フ文字で埋め尽くされている。
 日に何度もかかってくる電話を無視していたら、今度はメールが届きだした。 それも見ないで削除していたが、ケータイが鳴るたびに意識が持って行かれるせいで心が休まる時がなく、最終手段として電源を落とした。
 それなら着拒してしまえばいいものをと言われそうだが、別れた後も俺の気持ちは千早に残っていて、どうしてもそれができない。
 まだ好きな男からの度を過ぎた電話とメールに怯えながらも、心のどこかでそれを嬉しいと思ってしまう情けないほどの未練がましさに、自分でも呆れる思いだ。
 でも、好きな男からのコンタクトでも戸惑うのだから、これが好きでも無い奴からのものなら恐怖以外の何物でもないだろう。
 過去の元カレ達の一様の反応が今更ながら理解できたような気がする。

「ごめん、電源入れ忘れてたんだよ」

『もう何回かけたと思ってんだよ。 仕方ないから購買部にかけたけど、私用電話がバレるとマズイし用件だけ言うからな』

 山根の要件と言うのは、G.W.中に地方に配属された奴らも含めての同期会をするという話だった。
 日時も場所もお任せで、参加するとだけ伝えて電話を切る。
 が、受話器を置いてすぐにまた、内線が鳴りだした。
 それを取るより先に、少し離れた席の女子社員の声が届く。

「相沢さん、井岡製作所さんから外線入ってます」

 受話器へと伸ばしかけた手が止まる。
 井岡と聞いて焦った。
 担当者でもない俺に井岡から連絡が入るとは思えない。
 電話もメールも無視し続けている俺に焦れて、千早が会社に電話してきたのは明白だった。
 いくらなんでも会社にまで電話してくるとは思っていなかった。
 というか「まさか」だろ。

「ごめん、俺は担当じゃないから多田さんに回して」

「でも、相沢さんにって……」

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]