(俺はバカだ…)
今日一日だけで、何度そう思っただろう。
こんなコトを聞いてどうするんだ。
それ以前に俺は千早から話をされるまで、自分から聞くつもりなんてなかったんだ。
壊れたグラスは何度見たって、確かめたって元に戻りはしないのに。
どうやら俺の心と体のバランスは崩れたまま、完全に修復のしようがない所まで悪化しているみたいだ。
自分で聞いておきながら聞きたくないと強く思った俺は、この場から逃げ出すために起き上がろうとした。
けれど、そうする前に千早は答えてしまった。
「そうだよ、って言ったら、圭はどうするつもりなんだ?」
すべての結末を俺の手に委ねるような卑怯な駆け引きめいた答えに絶句した。
「どうするつもり」なんて、それが分からないから今日までずっと悩んでいたんだ、俺は。 それなのに……
そんな答えなら、はっきりと引導を渡してくれた方がずっと良かった。
それとも千早はこの先も、自分の状況が変わろうと今のこの関係を続けていくつもりでいるのか?
そんなの、都合がよ過ぎだろ。
俺にも、三波さんにもいい顔をしておいて、その実どちらにも真摯な態度は見せない。 千早はそんな自分勝手な奴だったのか。
あぁ、そうだよな。
最初からセフレなんて関係を持ちかけるような奴なんだ。 千早にとって俺なんてその程度の相手でしかなくて、そんな千早という人間を勝手な想像で美化して思い込んでいたのは俺なんだろう。
(だって、千早はバカみたいに優しかったから…)
全部が本気じゃないって知ってたのに、のめり込んだのは俺だ。 俺には最初からセフレという関係しか求められていなかったのに。
だから俺は、千早がセフレの俺に望むだろう答えを返した。
「別に…どうもしない」
「…圭は、そう言うと思ったよ」
千早は俺の答えに満足したんだろう。 それ以上、何も言わなかった。
ただ、毛布の上から俺の腕を掴む力があまりにも強くて、その意味が俺には分からなかった。
いや、きっと意味なんて無いんだ。
小さな引っ掛かりを頭から追い出して、俺は千早の腕からすり抜けるようにして体を起こした。