続けて「どうして泣くの?」と問いかけられて、俺は自分が泣いているコトに気がついた。
なぁ、千早。 それは愚問だろ?
俺が泣いているのは、悲しいからに決まってる。
セフレにはセックスを拒むコトも許されないのか?
恩着せがましく俺を助けて無理矢理抱いたくせに。
俺がどんな思いで千早から距離を取ってたかなんて知りもしないで。
(あぁ、でも、千早には分からないんだな)
千早を失いたくなくて会うのが怖かった俺の気持ちなんて、本気じゃない千早には理解できないだろう。
どこまでも、どこまでも一方通行な俺の想い。
「何でも…ない…」
「でも――」
再び背を向けて話を終わらせようとしたのに、それを止めようとする千早の声を遮るために俺は、つい聞いてはいけないコトを口にしてしまった。
「悪いと思ってんなら、教えてくれ。 井岡の三波さん、親の決めた許嫁がいるって本当か?」
一瞬、背中越しの千早が驚いたのが分かった。
「それ、誰に聞いた?」
「誰でもいいだろ? 本当なのか?」
僅かな間が空いたのは言い淀んだせいなのか、千早は渋々といった様子で答えた。
「本当だ。 でもそんなコト、圭には関係ないだろう?」
――関係ない――
その一言が、胸に刺さった。
「確かに俺には関係ないけどな。 でも、その相手って……もしかして千早なのか?」
「……」