『 SLOW LOVE vol.8 』
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「ちょ、千早っ、待てって」
玄関に入ると後ろ手に鍵を掛けた千早が、靴も脱がないうちから俺を抱きしめてきた。
驚いて手にしていたブリーフケースを落としたが、千早は意にも留めない。
半ば縺れる足で廊下へと進んだところで上衣を脱がされ、それが足元に落とされた。
「遠慮しないって言っただろ?」
「だからって、こんなとこでいきなり−−」
「圭がそうさせてるんだろ」
俺の腰を抱いたまま片方の袖から器用に腕を抜いた千早は今度はその手で俺を抱き寄せ、もう一方の腕から上衣を落とす。
足元に無造作に落とされた衣類に千早らしからぬものを感じて、戸惑う俺の唇に千早のそれが触れた。
いや、触れたなんて可愛いものじゃない。
いきなり唇を割り開かれて千早の舌が侵入してきた。
一瞬、驚いて抵抗するのが遅れた俺の肩を千早の手が掴み壁に押し付けてきた。
逃げ場を失くして身動きの取れない俺の口腔を蹂躙するみたいに舌が這いまわる。
角度を変えるたびにリップ音が響いて、堪らない気持ちにさせられた。
「んぅ…千早…待っ…」
首を振って千早の唇から逃れ、その肩を押し返す。
千早は意外そうな顔で俺を見た。 きっと、俺が千早を拒んだのが初めてだからだろう。
でも自分が何をどうしたいのかも分からない今の俺は、こんな風になし崩しに抱かれるなんてできなかった。
「ちょっと、待ってくれよ」
「どうして?」
「どうしてって…何もこんなところで始めなくても−−」
体を捩って千早の腕から逃れようとすると、二人の間に僅かな隙間ができた。