「別に。 帰ろうと思ったらお前が前を歩いてたから」
それなら普通に声を掛ければいいだろ?
あぁ、声は掛けたのか…。
まったく、もう。
「今日の在庫の狂いの件だけどな」
「え?」
「あれ、棚卸の時に臨時で雇ったバイトが原因だったらしい。 正確に数えてなかったみたいでな。 おまけにちょうど新システムの切り替えと時期が重なってたから、センターの奴らもシステムの不具合くらいに思って確認しなかったらしいんだ」
「そうですか…」
原因が分かったからと言って俺のミスが無かったコトになるわけじゃない。
もしかしたら多田さんは俺を慰めようとしてくれてるのかもしれないけど、あんなケアレスミスをした自分の情けなさは拭っても拭いきれない。
たくさんの人に迷惑をかけて、千早にも…。
そこまで考えてハッとする。
多田さんは通勤に俺と同じ私鉄を使ってるはずだ。
このまま駅まで一緒に行くコトになれば、駅で待ってると言った千早と出くわしてしまうかもしれない。
「多田さん…今日はこのまま帰るんですか?」
「あったりまえだろ? 何時だと思ってんだ。 あぁ、詫びの飲みなら休みの前の日にしてくれよ」
(いや、そうじゃないけど…)
つまりはこのまま駅に向かうってコトなんだな。
マズイな。 千早と出くわしても上手い言い訳なんて疲れた頭では思いつきそうにもない。
「なんならG.W.中でもいいぞ。 どうせお前も独り身の寂しい連休なんだろ?」
「ほっといてください――」
(あれ?)
そう聞いて、ふと思い出した。 先々週くらいだったろうか、確か多田さんはG.W.に三波さんを誘うようなコトを言っていたはずだ。